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がん細胞に薬剤を高効率に取り込ませる新たな手法を発見 抗がん剤を効果的に送り込む「薬物送達ベクター」の開発応用に期待

Digital PR Platform / 2024年7月18日 14時5分

【本件の内容】
研究グループは、細胞表面に存在する膜タンパク質CADM1を認識する抗CADM1抗体をいくつか独自に作製し、がん細胞において抗CADM1抗体が機能するメカニズムを分析しました。
作製した抗CADM1抗体のうち、先行研究でがんの増殖を抑制する効果が確認された2つの抗体について解析したところ、抗体AはCADM1を発現する細胞に結合すると細胞内に効率的に取り込まれること、抗体Bは抗体Aのがん細胞への取り込みを著しく促進することを見出しました。またこの現象は、CADM1に抗体Bが結合することによって、CADM1が細胞内の特殊な領域に移動することで生じることも明らかになりました。
次に、抗体Aと抗がん剤を用いた抗体薬物複合体を作り、抗体Bとともに担がんのモデルマウスに投与したところ、がんの増殖をほぼ完全に抑制できることが明らかになりました。ここから本研究成果は、CADM1を発現するさまざまながんの治療法開発と、抗がん剤をがん細胞に効率的に送り込む薬物送達ベクターの開発に新たな知見をもたらすと期待されます。


【論文概要】
掲載誌:Journal of Controlled Release(インパクトファクター:10.5@2023)
論文名:Efficient intracellular drug delivery by co-administration of two antibodies against cell adhesion molecule 1
    (抗CADM1抗体2クローン同時投与による効率的な細胞内への薬剤送達)
著者 :萩山満1、米重あづさ1※、和田昭裕1、木村竜一朗1、伊藤慎二2、井上敬夫1、武内風香1、伊藤彰彦1※ ※ 責任著者
所属 :1近畿大学医学部医学科病理学教室、2京都大学大学院医学研究科医学研究支援センター
URL :https://doi.org/10.1016/j.jconrel.2024.05.035
DOI :10.1016/j.jconrel.2024.05.035

【研究の詳細】
CADM1は構造上、免疫グロブリンスーパーファミリー※3 に属しており、細胞同士を結び付ける接着分子として機能しています。CADM1は細胞膜タンパク質であるため、CADM1に対する抗体はCADM1を発現する細胞の表面に結合します。
研究グループは、長年のCADM1研究の過程でいくつかの抗CADM1抗体を作製してきましたが、先行研究においてそのうちの2つの抗体AとBが、がん細胞の増殖抑制に効果を発揮することを明らかにしました。今回の研究では、まず、この2つの抗CADM1抗体についてシーケエンス解析を行なった結果、これらは同様にCADM1に結合する、IgY(抗体A)とIgM(抗体B)という別の機能を持つ抗体であることがわかりました。
次に、抗体Aを蛍光色素で標識した後細胞に添加し、蛍光を検出することで抗体Aの局在を調べました。細胞がCADM1を発現している場合には、抗体Aは添加後1時間以内にその細胞の表面に集積しました。その後、10時間かけて少しずつ細胞の内部に移動(内在化)していきましたが、内在化したのは全体の抗体の一部でした。一方、抗体Aと抗体Bを同時に添加したところ、抗体Aは1時間以内に細胞の表面に集積し、その後5時間以内にほぼ全てが細胞内に移動しました。ここから、抗体Aは内在化する性質を持ち、抗体Bはその内在化を著しく促進するとわかりました。この現象は、CADM1の細胞膜上の局在が、抗体Bが結合することによって脂質ラフト※4 と呼ばれる特殊な領域に移動することにより生じることも明らかになりました。
抗体の内在化現象は、薬剤を効率的に標的細胞に送り込む手段として注目されており、この現象を活用した抗体薬物複合体は、リンパ腫や乳がん、膀胱がんなどに対する抗がん剤として臨床の現場で使用されています。そこで研究グループは、抗体Aに抗がん剤(チューブリン重合阻害剤MMAE)を搭載した抗体薬物複合体を作製しました。CADM1を発現するがん細胞であるマウス黒色腫B16細胞をマウスの皮下に移植して増殖を確認した後、抗体A-MMAE複合体を抗体Bとともに移植部周辺皮下に注射したところ、腫瘍の増殖はほぼ完全に抑制されました。つまり、抗体A-MMAE複合体はB16細胞に内在化し、細胞内でMMAEが遊離して、B16細胞の細胞死を誘導したと考えられます。また、蛍光標識した抗体Aについて細胞内での局在部位を詳細に調べたところ、内在化した抗体Aは細胞内小器官であるリソソームに到達していることが確認でき、細胞内でのMMAE遊離はリソソームにて起こることが示唆されました。
CADM1を発現する腫瘍として、中皮腫、成人型T細胞白血病、骨肉腫、小細胞肺がん、早期肺腺がん、子宮内膜腺がん、小腸消化管間質腫瘍などが知られています。抗体A-MMAE複合体は、これらの腫瘍に対して治療効果を発揮する可能性が考えられます。また、薬剤を目的の細胞に効率的に送達することは、投薬量の削減と副作用の低減につながるため、本研究成果は薬物送達ベクター開発の研究領域に新たな視点をもたらすものとして期待されます。
抗体薬物複合体はがん治療の分子標的薬として注目されており、現在も多くの抗体薬物複合体が開発されていますが、既に製薬として承認されて臨床の現場で用いられている抗体薬物複合体も含めて、抗体内在化のメカニズムまで明らかにされているものは数少ないのが現状です。そのため、本研究はこれらの抗体薬物複合体開発に対して科学的根拠をもたらし、新たな開発の方向性を導くという点においても重要な成果となります。

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