肝臓の線維化マクロファージが作られる機序を解明~代謝障害関連脂肪肝炎の新規治療法の開発に期待~
Digital PR Platform / 2024年7月24日 14時5分
ここまでの研究で、肝臓単球で発現が亢進するEgr2が、線維化マクロファージへの分化を促進することが分かりました。次に、単球におけるEgr2発現誘導機構の解明を試みました。私たちは、ヒトのMASHの肝臓で増加する脂質の1つである、パルミチン酸に着目しました。パルミチン酸は、ラードやバターなどの動物性油脂に豊富に含まれている長鎖飽和脂肪酸です。骨髄由来マクロファージに、パルミチン酸を添加して6時間培養すると、Egr2発現レベルが4倍以上に亢進しました。興味深いことに、植物性油に豊富な不飽和脂肪酸を添加すると、パルミチン酸によって増加したEgr2発現が抑制できることを突き止めました (図3A)。私たちは、不飽和脂肪酸をマウスに投与することで、線維化マクロファージへの分化を生体レベルで抑制できると仮説を立てました。この仮説を検証するために、MASH誘導マウスにオレイン酸を、2日に1度、経口投与しました。驚いたことに、体重60㎏程度の人間に換算すると大さじ約1杯程度のオレイン酸を、2週間投与するだけで、肝臓マクロファージに占める線維化マクロファージが著明に減少することがわかりました(図3B)。以上の結果は、長鎖飽和脂肪酸による単球でのEgr2発現抑制が、肝線維症治療に応用できることを意味します。
本研究の意義と今後の展望
我々の研究により、単球から線維化マクロファージへの分化を抑えることで、MASHに伴う肝線維症を改善できる可能性があることが分かりました。今後は、MASH患者の病態とEGR2の相関を検討するとともに、単球やマクロファージにおけるEGR2発現を抑える化合物などを探索していくことで、MASHに対する新しい治療法開発を目指します。
論文情報
<論文タイトル>
Egr2 drives the differentiation of Ly6Chi monocytes into fibrosis-promoting macrophages in metabolic dysfunction-associated steatohepatitis in mice
<著者>
Ayaka Iwata, Juri Maruyama, Shibata Natsuki, Akira Nishiyama, Tomohiko Tamura, Minoru Tanaka, Shigeyuki Shichino, Takao Seki, Toshihiko Komai, Tomohisa Okamura, Keishi Fujio, Masato Tanaka, Kenichi Asano
<掲載誌>
Communications Biology
10.1038/s42003-024-06357-5
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