ワニはどうして長時間水に潜れるのか?
Digital PR Platform / 2024年8月7日 14時54分
~クライオ電子顕微鏡によってワニのヘモグロビンのもつ特徴的なアロステリック制御のしくみを解明~
横浜市立大学大学院生命医科学研究科 高橋捷也さん(博士後期課程3年)、ジェレミー・テイム教授、西澤知宏教授、李勇燦助教らの研究グループは、Aarhus大学(デンマーク)Angela Fago教授、Nebraska大学 Jay Storz教授、大阪大学蛋白質研究所 栗栖源嗣教授、川本晃大助教らとの国際共同研究により、ワニのヘモグロビンの立体構造とそのアロステリック制御*1に関わる重炭酸イオンとの結合様式を、クライオ電子顕微鏡単粒子解析*2により明らかにしました。
本研究成果は、科学誌「Nature Communications」に掲載されました(2024年8月2日)。
研究成果のポイント
クライオ電子顕微鏡を用いて、ワニのヘモグロビンの立体構造とそのアロステリック制御に関わる重炭酸イオンの結合様式を解明しました。
重炭酸イオンの結合に重要な、ワニのヘモグロビンにおけるアミノ酸置換を特定しました。
ヘモグロビンのような普遍的な分子が、生物の進化にともなって、どのように進化してきたのか、その関連性の理解に寄与することが期待されます。
研究背景
ヘモグロビンは血液中で酸素運搬の役割を担うタンパク質であり、全ての脊椎動物において共通の機能を果たします。ヘモグロビンはαサブユニットとβサブユニットがそれぞれ2つずつ会合した4量体構造をとります。各サブユニットはヘムと呼ばれる赤色に見える鉄イオン錯体をもっており、酸素が1分子結合することができます。酸素がヘムに結合すると、ヘモグロビン4量体はR (Relaxed) 型という「開いた」構造をとり、一方で、酸素が外れるとT (Tense) 型という「閉じた」構造をとることが知られています。これらの構造の変化は、ほとんどの脊椎動物において、有機リン酸の作用によってアロステリックに制御されます。一方、脊椎動物で唯一ワニは、有機リン酸の作用を受けることなく、重炭酸イオンの作用を受けることが40年以上前に報告されました。この重炭酸イオンの作用のおかげで、ワニは長時間潜水しても酸素を供給することができるため、それを活用した狩りを行うことが可能です。このワニに特有な重炭酸イオンの作用を明らかにするために、ワニのヘモグロビンの立体構造の分子レベルでの解析が必要でしたが、ワニのヘモグロビンは良質な結晶が得られておらず、いまだにX線結晶構造解析による構造決定に成功していません。そこで今回、研究グループはクライオ電子顕微鏡単粒子解析法を用いることで、ワニのヘモグロビンの構造決定を目指しました。
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