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サンゴの骨格形成過程で生じる結晶微粒子を可視化 --サンゴ骨格の立体構造に関与する石灰化中心--北里大学

Digital PR Platform / 2024年8月21日 14時5分

■研究内容と成果
 サンゴは周囲の海水からミネラルを濃縮し、炭酸カルシウム骨格を形成しますが、このメカニズムについてもいまだ分からないことが多くあります。特に、石灰化中心と呼ばれる部位は、生物作用が大きく、骨格の形態形成を制御する重要な部位であることは古くから知られていました。1990年代に入ると、分析技術の発展により、生物作用の大きい石灰化中心は、その他の骨格部位に比べてイオン組成が異なることは明らかになっていました(引用1)。最近では、サンゴ骨格中の微量元素組成を高解像に分析する手法が発展していますが、実際に生体のサンゴを用いて、石灰化中心の骨格形成過程を可視化した研究例はありませんでした。
 本研究では、コユビミドリイシ(Acropora digitifera)のサンゴ稚ポリプの骨格形成過程の様子を、まず、偏光顕微鏡を用いて、底部から数日間撮影しました。ポリプ着底部で直径数μmの微粒子の出現を起点とした、石灰化中心の形成過程を撮影することに成功しました 【図3】。画像解析により、石灰化中心が形成される際、造骨細胞の周囲や間隙で、まず急速降着前線堆積物(Rapid accretion deposit)と呼ばれる小さな微粒子が形成され、その後、繊維状の炭酸カルシウム結晶が成長すること(Thickening deposit)が分かりました。そして、この2つの過程には、別々のメカニズムが関与していることも報告しました。
 さらに、ポリプの生体内で隔壁を蛍光染色し、2光子顕微鏡を用いることで、微粒子の動態を画像解析することにも成功しました。画像解析から、隔壁の石灰化中心も、微粒子で構成されており、微粒子が付着しながら隔壁が成長する様子が明らかになりました。

■今後の展開
 造礁サンゴは熱帯から亜熱帯域に広く生息し、多様な骨格を形成します。サンゴ骨格の立体構造は、多くの浅海性生物に安定した生息場所を提供し、共生する藻類の光合成により豊かなサンゴ礁生態系を支えます。サンゴ礁は、海洋で最も多様な生態系であり、その他にも沿岸保護、漁業、観光などに重要で、世界的には、年間に数百兆円の生態系サービスを生み出していると試算されています(引用2)。しかしながら、サンゴ礁は、海水温の上昇、海洋酸性化、富栄養化、乱獲、海面上昇、海洋汚染など、人間活動による多くの脅威に直面しており、造礁サンゴへの影響予測は急務です。
 本研究のように、生体のサンゴを顕微鏡により観察する実験手法の開発は、サンゴを生理学的に理解する上で必要不可欠と言えます。本研究で用いた2光子顕微鏡技術という、新しい生体イメージング技術を用いることで、サンゴのみならず、さまざまな海洋生物の生理現象の理解につながります。最近では、骨格形成部位でのカルシウムイオンや炭酸イオンの化学反応に加え、サンゴの骨格成長の促進には炭酸カルシウム骨格の前駆体となる非結晶構造(アモルファス構造)が重要であることが、国際的に議論されるようになりました。また、骨格成長界面で、どのような物理・化学現象が起こっているのかの議論も深まっています。実際のサンゴの生体を対象にした、非破壊的なイメージング技術の発展により、サンゴの骨格形成メカニズムが明らかになることが期待されます。

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