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サンゴの骨格形成過程で生じる結晶微粒子を可視化 --サンゴ骨格の立体構造に関与する石灰化中心--北里大学

Digital PR Platform / 2024年8月21日 14時5分

■論文情報
論文名:Live imaging of center of calcification formation during septum development in primary polyps of Acropora digitifera
邦題名:コユビミドリイシ稚ポリプにおける隔壁形成時の石灰化中心の生体イメージング
掲載誌:Frontiers in Marine Science
著 者:大野良和(北里大学)、高橋有南(北里大学)、堤元佐(生命創成探究センター/生理学研究所)、窪田梓(北里大学、日本電子株式会社)、井口亮(産総研)、飯島真理子(産総研)、水澤奈々美(北里大学)、中村崇(琉球大学)、鈴木淳(産総研)、鈴木道生(東京大学)、安元純(琉球大学)、渡部終五(北里大学)、酒井一彦(琉球大学)、根本知己(生命創成探究センター/生理学研究所)、安元剛(北里大学)
DOI:10.3389/fmars.2024.1406446

■研究資金
 本研究は、産総研環境調和型産業技術研究ラボ (E-code)、日本学術振興会科研費(23K14222、23H00339、JP22H04926)、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20221C01)、総合地球環境学研究所(RIHN14200145)、新エネルギー・産業技術総合開発機構、先端バイオイメージングプラットフォーラムによる支援で行われました。

■用語解説
・サンゴ
サンゴは、イソギンチャクやクラゲの仲間(刺胞動物)に分類され、その体表を⾒ると、たくさんのポリプで構成されている。サンゴの多くの種は炭酸カルシウムの⾻格を形成する。その中でも、造礁サンゴは、⾻格が堆積すると、砂浜や地形の⼀部となり、熱帯・亜熱帯地⽅の島々の基盤形成種として重要である。造礁サンゴの体内には⼤量の褐⾍藻が共⽣していることが特徴で、この共⽣藻類は、浅い海の光を利⽤して光合成を⾏ない、造礁サンゴに栄養を供給している。⼀⽅、⾮造礁サンゴには宝⽯サンゴなどが含まれ、光が届かない深海でも⽣息している。
・隔壁
サンゴの柔らかい軟組織を⽀える構造物である。本研究で⽤いたコユビミドリイシは六放サンゴ類に属し、6 の倍数を基本とする放射状の隔壁を有している【図2】。造礁サンゴのほとんどは六放サンゴ類であるが、世界的に絶滅の危ぶまれるアオサンゴは⼋放サンゴ類である。また、地球上に最初に出現したサンゴ類は四放サンゴ類や床板サンゴ類であるが、すべて化⽯種からなり、古生代の終わり(約2億5000万年前)に絶滅してしまった。
・石灰化中心(Center of calcification)
サンゴによる生物作用が強く、サンゴが立体的な構造を作る先端部に出現する。直径が数μm程度のものが多く、中心部は繊維状の炭酸カルシウム結晶とは異なり、粒子状の構造物で構成されていることは、多くの研究で明らかにされてきた(引用3)。本研究では、生体のサンゴを実験に用い、石灰化中心の起点を捉えることに成功した【図3】。
・サンゴ稚ポリプ
造礁サンゴの体表を見ると、たくさんのポリプで構成されている。サンゴ稚ポリプは、サンゴが一斉産卵をした後、プラヌラ幼生(浮遊期)を経て着底した、初期ポリプである【図1】。国内では、サンゴ稚ポリプを基板上に着底させる技術が発展しており、毒性影響評価等にも応用されている(関連記事②、関連記事③)。本研究で用いたコユビミドリイシに褐虫藻を獲得させることで、共生状態の有無で研究を行うことも可能である。
・偏光顕微鏡
鉱物学や材料科学で発展してきた技術であり、試料の構造や特性を詳細に観察するために通常は薄片を作成する。サンゴ稚ポリプの底部は薄い骨格で構成され、偏光顕微鏡で観察すると、異なる結晶方向や種類に応じてさまざまな色が生じる【参考画像】。炭酸カルシウム骨格を高いコントラストで撮影できるため、本研究でも応用された。
・微粒子
サンゴ骨格の結晶成長は微粒子の集合体から開始されるとされている。本研究では、石灰化中心と微粒子の関連性について観察を行った。偏光顕微鏡で観察した微粒子は直径が数μm程度であったが【図3】、2光子顕微鏡で詳細な観察を行ったところ、1 μm以下の微粒子が石灰化中心に付着していく様子を明らかにした【図4】。
・走査型2光子励起レーザー顕微鏡
2光子顕微鏡は、焦点以外での光化学反応が無く、非常に局所的な蛍光励起が可能であるため、生体組織の詳細な観察や神経活動のリアルタイム観察において発展してきた。2つの低エネルギー光子(近赤外線)が蛍光色素に同時に吸収され、蛍光分子を励起することが名前の由来である。近赤外線は生体深部まで届くため、サンゴの生体内で隔壁表面の微粒子の様子を観察することが可能となった【図4】。サンゴの組織内で骨格自体は観察できるが【図1】、微細構造の観察では、ピンぼけを防ぐ工夫が必要である。
・μm(マイクロメートル)
1 mmの千分の一の長さである。本研究では、μmサイズの微粒子に着目して研究を行った。さらに、1 μmの千分の一の長さがnm(ナノメートル)である。
・電子顕微鏡
電子線を使用した観察手法である。電子線は波長の短い波であり、光学顕微鏡に比べて高い倍率で観察することができる。図2では電子顕微鏡の一種である走査電子顕微鏡(SEM)でサンゴ稚ポリプの骨格表面の構造を観察したものである。電子顕微鏡は非常に高解像度で対象の観察ができる一方で、試料を真空状態で観察する必要があり、生物を生きたまま観察を行うことが困難である。
・生物的な作用
石灰化中心と繊維状の骨格では、構造や元素組成が異なることから、生物作用が大きいことが古くから議論されてきた。有機物の関与も指摘されており、海外ではvital effectと呼ばれ、数多くの研究がされてきた。
・蛍光染色
透明な細胞や組織の特徴を観察するためには、調べたい部位を染⾊する必要がある。蛍光は、物質に照射した光より⻑波⻑の光が放出される現象(⾚⾊シフト)であり、蛍光⾊素として研究で⽤いられる。本研究では、カルシウムと結合性の⾼いカルセイン蛍光⾊素を使⽤し、成⻑中のサンゴ⾻格や微粒⼦の観察に⽤いた。
・非結晶構造(アモルファス構造)
電⼦顕微鏡の⼀種である⾼分解透過電⼦顕微鏡(HRTEM)などを⽤いると、結晶構造の規則的な原⼦配列を観察できる。⼀⽅で、規則的な原⼦配列を持たない不定形の構造が⾮結晶質である。サンゴの場合は造⾻細胞内、あるいは⾻格表⾯で、最初にアモルファス構造の炭酸カルシウムが形成され、その後、結晶成⻑が促進されるという説が最近、有⼒となってきた(引用4)。本研究では、⽯灰化中⼼の微粒⼦は可視化できたものの、⽣体内で結晶と⾮結晶を識別はできないという結論に⾄った。

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