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進行がんでみられる"痩せ"を引き起こす新たな免疫細胞を発見

Digital PR Platform / 2024年9月12日 20時5分


内 容 
 がん悪液質がおこるしくみを調べるため、本研究グループは、慢性骨髄単球性白血病(CMML)という血液のがんに着目しました。CMMLは持続的に単球が増えつづける血液がんですが、CMML患者さんでは、体重減少や筋肉の萎縮といった悪液質の症状がよくみられることが知られています。こうした悪液質の症状は他の血液がんではあまりみられないことから、CMML患者さんで増えている単球の中に、悪液質の原因となる特殊な細胞集団がいるのではないかと考えました。
 この仮説を検証するために、本グループが樹立したCMMLのモデルマウス(Blood Advances 2019;3(7):1047-1060)を詳細に解析しました。CMML患者さんから同定されたNUP98-HBO1という融合遺伝子を使って樹立されたこのモデルでは、CMML患者さんと同様に単球が増加し、体重減少がみられます。このマウスを詳しく調べると、健康なマウスに比べて筋肉の萎縮と筋力低下が進んでいることがわかりました。このマウスから単球細胞だけを集めてきて、マウスの筋線維細胞(C2C12細胞)と一緒に培養したところ、筋線維の萎縮が観察されました。この結果は、CMMLマウスで増えている単球の中に、筋肉を減少させるはたらきを持った特別な細胞が存在するということを意味しています。
 そこで、RNAシークエンシング(RNA-Seq)※2という方法で単球細胞内のすべての遺伝子の発現レベルを調べ、体重減少がみられたCMMLマウスの単球でだけ発現の上昇がみられる複数の遺伝子を特定しました。そして、フローサイトメトリー※3などの手法を用いて、それらの遺伝子が実際にタンパク質として単球に発現しているかを検証しました。これにより、悪液質を発症したCMMLマウスの単球の中に、健康なマウスの単球ではみられないCD38という抗原が発現し、筋肉の萎縮を引き起こすIL36Gというサイトカインを産生する特殊な細胞集団がいることをつきとめました。こうして発見した単球を、「Cachexia-inducible Monocyte:CiM(悪液質を誘導する単球)」と名づけました。
 CiMの特徴を詳しく理解するために、1細胞レベルで網羅的に遺伝子の発現を調べることができるシングルセルRNA-Seq解析を行いました。すると、CiMが好中球に似た性質を持つ特殊な単球であることがわかりました。また、ちょうど体重減少がはじまる前にCiMが出現すること、CiMの誘導にはトール様受容体4(TLR4)の刺激が重要であるということもわかりました。進行がんの患者さんの血液中では、HMGB1やS100A9などのタンパク質が上昇していることが報告されています。これらのタンパク質はTLR4を刺激することが知られていますので、CiMの誘導にかかわっている可能性があります。
 血液中の単球増加が、血液がんだけでなく様々な固形がんの患者さんにおいても予後不良と関連することが報告されています。そこで、乳がんや皮膚がんのモデルマウスを解析したところ、がんの進行とともにCiMが現れ、悪液質を引き起こすことがわかりました。さらに、大腸がんや腎臓がん患者さんの単球の遺伝子発現データを解析し、がんの進行にともなってCiMが出現していることを確認しました。これらの結果は、筋肉の減少を引き起こすCiMの出現が、がんの種類を問わず、がん悪液質に共通する普遍的な現象であるということを示唆しています。
 最後に、進行がんマウスで、単球のIL36G産生を抑えたり、筋肉のIL36受容体を阻害したりして、本グループが発見したCiMやIL36Gが悪液質の治療標的となるかどうかを検証しました。その結果、CiMに関連したIL36Gのはたらきを阻害することで、悪液質の発症が抑制されることが確認されました。本研究の成果が、がん悪液質に有効な新しい治療法の開発につながることが期待されます。

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