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追手門学院大学の高見剛教授らの研究チームがアニオン副格子の回転運動を用いたフッ化物イオン伝導体の創出に初めて成功 ― 全固体フッ化物イオン電池実現に向けて新たな一歩

Digital PR Platform / 2024年9月13日 20時5分

【研究の背景】
 本研究では、"Magic element"と呼ばれるユニークなフッ素原子がイオン化したフッ化物イオンを、固体中で高速に拡散するイオン伝導体が対象。高見教授は、これまで化学フッ化した2次元(2D)物質の窒化ホウ素において、無機物の中で世界最高のフッ化物イオン伝導率を達成した[T. Takami* et al., Materials Today Physics 21, 100523 (2021). *は責任著者]。
 またSr3Fe2O5F2において、F-の2D拡散を実証し[Y. Wang, T. Takami* et al., Chem. Mater. 34, 10631 (2022)]、さらに近年、フッ化物イオン伝導体のレビュー論文を出版している[T. Takami* et al., Journal of Physics: Condensed Matter 35, 293002 (2023).]。
 最近では、フッ素と窒素からなる複合アニオン化合物において、電子化物(※4)由来の物質を化学フッ化することで、フッ化物イオン伝導の発現を達成した[T. Takami* and coauthors, Chem. Mater. 36, 5671 (2024).]。これらの過程で、閉じた構造をしている静的なアニオン副格子(※5)によりF⁻の拡散が阻害されている問題点を見出。F⁻の拡散が促進されるようにアニオン副格子の構造を制御して、F⁻の拡散先となるF空孔の導入と動的なアニオン副格子を作り出すことができれば、イオン伝導率の一層の上昇を達成できると着想した。
 本研究では、アニオン副格子であるSnF6八面体を格子中で孤立するように制御し、F⁻拡散に伴いこの八面体が回転する証拠を得た。フッ化物イオン伝導率は、全固体フッ化物イオン電池の固体電解質La0.9Ba0.1F2.9に匹敵する値を示している(約10⁻⁴ Scm⁻¹, 140゜C)。

【研究内容と成果】
 今回のイオン伝導体の開発では、固相反応法(※6)を用いてTl₄.₅Sn₁-xBxF₈.₅-x(B = Al, Y, Sm)を合成した。その過程では、出発原料粉である金属フッ化物TlF, SnF₄, AlF₃, YF₃, SmF₃をアルゴン雰囲気のグローブボックス中で混合し、その後、これらの粉末をペレット状に圧粉し、モリブデンホイルで包んだ状態で、アルゴン雰囲気中にて焼成している。
 従来のフッ化物空孔を介したフッ化物イオンの動きとは対照的に、孤立したアニオン副格子は、その回転柔軟性から、格子間フッ化物イオン拡散のための新たな戦略を提供する可能性がある。
 本研究では、孤立したSnF₆八面体の間にフッ化物イオンを含むTl₄.₅SnF₈.₅を用い、キャリア量を固定した状態で、SnサイトをAl, Y, Smで置換してイオン半径を変化させたときのセル体積とフッ化物イオン伝導度の関係を調べた。得られた物質の結晶構造は、中性子回折測定(※7)により精密化した。Tl₄.₅Sn₀.₉Y₀.₁F₈.₄が最大のフッ化物イオン伝導度を示し、活性化エネルギーは最小であった。この材料をボールミリングすると、La₀.₉Ba₀.₁F₂.₉に匹敵する高い室温フッ化物イオン伝導度が得られた。また、ニューラルネットワークポテンシャル分子動力学法(※8)を用いて、フッ化物イオンの拡散機構を解明した。
 その結果、SnF6八面体のフッ化物イオンは回転運動を起こし、これがフッ化物イオンの拡散と格子間フッ化物イオンのホッピングを媒介することがわかった。孤立アニオン副格子のこれらの働きは、フッ化物空孔の導入に基づく従来のアプローチを補完するフッ化物イオン伝導体の新しい設計戦略を提供する。

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