うつのマーカーを発見--北里大学
Digital PR Platform / 2024年9月30日 14時5分
北里大学薬学部生薬学「健康長寿ゲノム講座」特任教授の岡田典弘らの研究グループは、同大学薬学部附属東洋医学総合研究所・北里研究所病院漢方鍼灸治療センター(旧 北里大学東洋医学総合研究所)の小田口浩、小林義典、関根麻理子、若杉安希乃らとの共同研究で、軽度のうつ症状を訴える被験者における血球のRNA-seqの分析結果より、イントロン・リテンション(IR)がうつ状態の優れたマーカーになることを発見しました。
従来の研究手法では、遺伝子発現のレベルでうつのマーカーは発見されていません。これらの研究では、多くのうつの患者について、いわゆるDEG(differential expression of genes)の分析が数多く行われてきました。つまり、対照群に対して、うつ状態の発症に伴い、発現が上昇(upregulation)した遺伝子、或いは発現が低下(downregulation)した遺伝子の分析です。ところが、この手法では試験ごとに出現する遺伝子が異なり、DEGはマーカーにならないとされてきました。そして、いわゆるうつのpolygenic hypothesis(多遺伝子原因仮説)が提唱されてきたのです。
我々はこれまで老化のモデルマウスを研究する過程で、イントロン・リテンション(IR)がストレス応答によって起こり、漢方薬によってそのストレスが解除されると、IRが健康状態に戻るということを観察してきました。このような知見をもとに、IRを起こす遺伝子(以下、IR遺伝子)がうつの評価・あるいはうつに効く漢方薬の評価に使えると考えました。臨床研究を行い、うつの症状を訴えるボランティアを対象にIRの分析を行ったところ、炎症あるいは自然免疫関連の遺伝子、また繊毛関連遺伝子の約300の遺伝子でIRの変化が観察されました。これらの遺伝子はうつのマーカーになる可能性のある遺伝子であると考えられます。
実際にマーカーになる可能性を確かめるために過去に発表された2つの論文中のうつ患者のIRを再解析したところ、かなりの遺伝子がコホート間でオーバーラップすることが見出されました。我々のデータはMDD(大うつ病性障害)になる前のうつの前症状のデータであり、ZhangらのデータはMDDのデータ、CathomasらのデータはMDDのしかもketamineに抵抗性のnon-responderのデータであり、この三つのコホートの対象者は、国籍も異なるし、それぞれ抑うつの状態も異なっていると考えられます。それにもかかわらず、三つのコホートで共通のIR遺伝子は15あり、いずれも免疫関連、繊毛関連の遺伝子を含んでいました。これらの結果はこれらの遺伝子がマーカーになりうることを示しています。
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