光合成微生物シアノバクテリアの新規の環境ストレス順応応答の発見〜限りあるリン資源を有効活用する持続的な物質生産への応用に期待
Digital PR Platform / 2024年10月1日 14時5分
この度,東京薬科大学 生命科学部 環境応用植物学研究室 佐藤典裕准教授らの研究グループは,シアノバクテリアにおいて主要栄養素であるリンの欠乏ストレス下,リンの利用効率が向上する新規のストレス順応応答を明らかにしました.さらにポリリン酸の合成酵素遺伝子がポリリン酸量だけでなく,それ以上に細胞の全リン含量,つまり,リンの利用効率の決定に重要であることを見出しました.以上の結果は,光合成生物を利用した持続的な物質生産への応用が期待されます.この成果は2024年1月29日,次いで2024年7月31日に共にFrontiers in Plant Science誌に掲載されました.
【ポイント】
■シアノバクテリアで主要栄養素リンの欠乏下,rRNAがより重要なリン化合物へ変換され,それによりリンの利用効率が向上する順応応答を発見しました.
■ポリリン酸(polyP)合成酵素遺伝子(ppk1)の破壊により,シアノバクテリアの細胞ではpolyPとそれ以上に全リン量が低下し,リン利用効率が向上することを発見しました.
■ppk1のはたらきにより,硫黄欠乏下,シアノバクテリアの細胞ではpolyPとそれ以上に全リン量が増加すること,つまり,リンの蓄積能が増強することを発見しました.
■本研究の発見は,光合成微生物を用いた有用物質生産時のリン投与量制限,そして農作物栽培を見据えた排水からのリン回収・資源化,つまり持続可能な物質生産へ応用可能です.
【 概 要 】
東京薬科大学生命科学部 環境応用植物学研究室 佐藤典裕准教授らはシアノバクテリアの一種,Synechocystis sp. PCC 6803において,リン欠乏下での細胞生育中にrRNAが分解され,それにより遊離するリンが必須リン脂質等のリン化合物へと代謝変換される過程を発見しました.これは細胞のリン含量の低下をもたらす,つまりリン利用効率を高める新規のリン欠乏順応応答です.一方,Synechocystisではポリリン酸合成酵素遺伝子(ppk1)が細胞のpolyP量だけでなく,全リン量の決定に関わることを発見しました.栄養十分条件下,ppk1の破壊により細胞ではpolyP以上に全リン量が大幅に低下し,リン利用効率が顕著に高まりました.この場合,細胞の生育能は損傷しませんでした.硫黄欠乏下,野生株の細胞ではpolyPが,そしてそれ以上に全リン量が大きく増加しました.つまり,リンの細胞内への取り込み・蓄積能が顕著に増強しましたが,これは主にppk1のはたらきによりました.さらに,このppk1のはたらきは細胞の硫黄欠乏順応に重要でした.本研究によりSynechocystis等の有用な光合成微生物にリン利用効率を向上させ,培養時のリンの投与量を制限する,またはリン取り込み能を向上させ,排水からリンを回収・資源化し,農作物栽培に利用する道が開かれます.つまり,リン資源が世界で枯渇しつつある中,その効率的活用に基づく,持続可能な物質生産系の開発へと応用可能です.
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