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【大阪大学】免疫を標的としたB型肝炎の創薬へ B型肝炎慢性化に関わる免疫の変化を発見 ―TLR7を標的とした治療開発に期待―

Digital PR Platform / 2024年10月11日 14時5分

【研究の背景】
 B型肝炎ウイルス(HBV)は世界で約3億人が罹患する世界的な感染症であり、国内においてもその感染者数は110~140万人(およそ100人に1人)に及ぶ。HBVに感染すると、一部の症例では持続的な肝障害が生じ、肝硬変や肝がんを発症する。現在、B型肝炎に対する治療薬としてはインターフェロン製剤や核酸アナログ製剤(※5)があり、ウイルス増殖抑制効果と肝炎沈静効果が認められている。
 一方で、HBVは肝細胞の核内に姿を変えて潜むことが知られており、現状の治療法では体内からウイルスを完全に排除することは困難である。また、免疫システムがウイルスを感知し、適切に作動することがウイルス排除に重要と考えられているが、HBVは免疫をかく乱させその監視から逃れていることも知られている。
 HBVは実験動物として汎用されるマウスには感染しないことから、感染する動物モデルは非常に少なく、HBVによる免疫逃避機構の詳細な検討は困難であり、いまだに不明な点が多くある。

【研究の内容】
 研究グループは、B型肝炎持続感染による生体内の免疫動態を観察できるマウスモデルを樹立し、免疫を標的とした治療法を開発することを目的として研究を開始した。
 マウスモデルの作成に当たり、フマリルアセト酢酸ヒドラーゼ(FAH)欠損マウスを用いて開発を行った。FAH遺伝子は高チロシン血症Ⅰ型の原因遺伝子であり、その欠損によりチロシン代謝が阻害されることで、肝毒性のあるフマリルアセト酢酸が増加し肝細胞が傷害される。一方、FAH欠損マウスは高チロシン血症Ⅰ型の治療薬であるニチシノンを服用することで、フマリルアセト酢酸の産生が抑えられ、肝障害が抑えられる。そこで、FAH欠損マウスを用いて、FAH遺伝子とHBVゲノムを直列に繋いだ発現ベクター(※6) を一部の肝細胞に導入し、ニチシノンの投与を中止(図2)。これによりFAH遺伝子が導入されていない肝細胞はFAH欠損による毒性のため細胞死が誘導される一方、HBVゲノムとFAH遺伝子を含む肝細胞は、ニチシノンの非存在下でも生存した。その結果、HBVとFAHを共に発現する肝細胞が肝内で増殖し、ベクター導入8週後には肝臓全体をほぼ置換した。その結果、このマウスでは肝細胞内でHBV持続感染が生じ、ウイルス血症や肝障害が約1年にわたり継続した(図3)。
 そこで、このB型肝炎が持続感染するマウスモデルを用いて、肝臓内における免疫動態をシングルセル遺伝子発現解析により検討。その結果、このマウスでは、ウイルス排除に重要な免疫系として考えられている細胞傷害性T細胞(CTL)やナチュラルキラー(NK)細胞(※7)、マクロファージ(※8)などの機能が変化していることがわかった(図4)。HBVウイルスを認識するCTLは、インターフェロンγやTNFαなどのサイトカイン(※9)産生低下や免疫チェックポイント分子(※10)であるPD-1の発現上昇が生じており疲弊状態を呈していた(図4)。また、CTLの疲弊状態とウイルス血症が正に相関していたことから、CTLの疲弊による機能低下がB型肝炎慢性化に関与していることが示唆された(図4)。NK細胞においては細胞傷害活性が亢進しており、マクロファージにおいては炎症応答機能の低下が認められた(図4)。
 次に、このマウスを用いて、B型肝炎の治療薬として用いられるインターフェロンの免疫賦活効果を検証。インターフェロンの投与により、このマウスではさまざまな免疫系の活性化や体内のウイルス減少効果が認められた。以上より、このマウスはHBV持続感染による生体内の免疫動態を観察できることに加えて、B型肝炎に対する免疫を標的とした創薬評価にも有用と考えられた。
 そこで、大日本住友製薬(現 住友ファーマ)と国立国際医療研究センターが共同研究中のTLR7作動薬SA-5の効果をこのモデルで検証した結果、有意なウイルス減少効果が認められた(図5)。SA-5投与により、CTLのインターフェロンγ産生能、NK細胞の細胞傷害活性、マクロファージの炎症応答機能はいずれも亢進しており、また、これらの免疫活性化作用はインターフェロンよりも有意に強力であった(図5) 。以上から、SA-5がB型肝炎に対するウイルス排除を目指した新たな治療薬になる可能性が示された。

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