強力な抗がん作用を示す海洋天然物の分子構造決定と完全化学合成に世界で初めて成功~NMR・計算化学・合成化学の統合的アプローチによる革新的な化合物の発見・創出への貢献に期待~
Digital PR Platform / 2024年10月25日 20時5分
3.本研究成果の意義
本研究は、2007年の単離論文発表以降、大きな注目を集めながら17年間にわたり未解決であったイリオモテオリド-1aおよび-1bの全立体構造を決定するとともに、初の全合成を達成したもので、現在までにイリオモテオリド-1a を50ミリグラム以上、全合成により供給することに成功しています。参考までに、2007年の単離論文では、渦鞭毛藻の培養液400リットルからイリオモテオリド-1aをわずか4.3ミリグラム得ているのみです。生産生物の培養による化合物供給が容易ではないため、今後、合成品を用いて本天然物の生物機能を詳細に解析する道が拓けました。
また、よりブロードな意義として、本研究は複雑な天然物の構造決定において、NMR構造解析、計算化学、合成化学の統合的アプローチが極めて有効であることを実証しました。いまだ数多くの複雑な天然物の構造式が定まらず、その利活用が立ち遅れていることを鑑みれば、本研究で開発した統合的アプローチによる天然物の構造解明を進めることで、天然物創薬やケミカルバイオロジーなどの研究領域に革新的な化合物を供出できるものと期待されます。
●この研究成果のもととなった研究経費
以下の支援を受けて実施しました。ここに深謝いたします。
○科研費「アンフィジニウム属渦鞭毛藻の有用二次代謝産物の探索と開発」(課題番号23K21364)
○科研費「複雑海洋天然物の実践的全合成と構造改変による立体配座・活性制御」(課題番号22K05336)
○自然科学研究機構 岡崎共通研究施設 計算科学研究センター (課題番号23-IMS-C289)
【発表者の情報】
尾花 知紘(中央大学大学院理工学研究科 博士課程前期課程 学生(当時))
中島 美結(中央大学大学院理工学研究科 博士課程前期課程 学生)
中里 一貴(中央大学大学院理工学研究科 博士課程前期課程 学生(当時))
中川 颯人(中央大学大学院理工学研究科 博士課程前期課程 学生(当時))
村田 佳亮(中央大学理工学部 助教)
津田 正史(高知大学農林海洋科学部/海洋コア国際研究所 教授)
不破 春彦(中央大学理工学部 教授)
【各研究機関の役割】
中央大学:計算化学と合成化学による候補構造式の導出、全合成による構造確認
高知大学:天然標品のNMR解析とデータの検証
【発表雑誌】
雑誌名:アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」(オンライン版)
タイトル:"Iriomoteolide-1a and -1b: Structure Elucidation by Integrating NMR Spectroscopic Analysis, Theoretical Calculation, and Total Synthesis"
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jacs.4c11714
著者名:Tomohiro Obana, Miyu Nakajima, Kazuki Nakazato, Hayato Nakagawa, Keisuke Murata, Masashi Tsuda,* Haruhiko Fuwa*
(*責任著者)
DOI:10.1021/jacs.4c11714
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