神経-肝型ミトコンドリアDNA枯渇症の新規原因遺伝子を特定 ~世界初の症例を報告~
Digital PR Platform / 2024年11月12日 14時5分
【概要】
順天堂大学 難病の診断と治療研究センターの木下善仁 非常勤講師(近畿大学 理工学部生命科学科講師)と岡﨑康司 教授、村山圭 教授、および埼玉医科大学 大竹明 名誉教授らの共同研究により、遺伝子診断で未確定となっていた神経-肝型ミトコンドリアDNA枯渇症の症例に対して、遺伝学的解析および検証実験を行い、MICOS10 遺伝子の変異を世界で初めて発見し、原因の特定に至りました。従来の遺伝子診断法では見出すことができなかった遺伝子異常を、全ゲノム解析*1 やRNAシークエンス*2 を行うことによって明らかにしました。本論文はLiver International誌のオンライン版に2024年11月8日付で公開されました。
【本研究成果のポイント】
●神経-肝型ミトコンドリアDNA枯渇症の原因としてMICOS10 遺伝子を同定した
●全ゲノム解析とRNAシークエンシングを用いた複合的解析によって原因の特定に至った
●神経-肝型ミトコンドリアDNA枯渇症の原因としてMICOS複合体*3 が関与していることが明らかとなった
【背景】
ミトコンドリアの機能異常が原因となる病気を総称してミトコンドリア病と呼んでいます。この疾患の発症年齢や症状、遺伝形式は多岐に渡っており、臨床的また遺伝的に診断が非常に難しい疾患です。
岡﨑教授および村山教授らの研究グループは十数年にわたり、埼玉医科大学ゲノム医療科・小児科(大竹明 名誉教授)と共同で、ミトコンドリア病の生化学診断や遺伝子診断に取り組んできました。ミトコンドリアDNA枯渇症はミトコンドリア病の一つであり、ミトコンドリアDNA量が臓器で減少することを特徴とします。また、肝臓型や神経型、筋型、心筋型のミトコンドリアDNA枯渇症が報告されています。多くのミトコンドリアDNA枯渇症はミトコンドリアDNAの複製やミトコンドリアDNAの材料となるヌクレオチドの合成に関わるものでしたが、今回の報告では、MICOS複合体というミトコンドリアの内膜構造の形成に関わるMICOS10 遺伝子に異常があることを新たに見出しました。
【内容】
今回、ミトコンドリア病の未解決症例を対象として、全ゲノム解析およびRNAシークエンスを行いました。対象となる症例は肝臓と神経に主な症状を呈し、肝臓においてミトコンドリアDNA量の低下が観察され、ミトコンドリアDNA枯渇症と診断されていました。従来のゲノム解析方法である全エクソーム解析を用いて原因探索を行いましたが、原因となる遺伝子異常を見つけることができませんでした。全ゲノム解析を行うことで、MICOS10 遺伝子にヘテロ接合のc.173G>C(p.Cys58Ser)の遺伝子異常を見出しました。AlphaFold2*4 の予測によって、このアミノ酸残基は立体構造形成に重要であるジスルフィド結合を担うものであることがわかりました(図1)。また、エクソン1を巻き込む4.6k塩基対ほどの欠失を有することも明らかにしました(図2)。RNAシークエンスのデータから、エクソン1を欠失している染色体からはMICOS10 遺伝子のmRNAが発現していないことを明らかにしました。つまり、c.173G>Cが存在する染色体からしか、MICOS10 遺伝子のmRNAが発現しておらず、そのmRNAの翻訳産物はp.Cys58Serの変化により、タンパク質機能が損なわれていると考えられました。
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