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【「ブルックリンでオペラを」評論】いろいろに解釈できる奥行の深さ、本筋でない所にもお愉しみがいっぱいな一作

映画.com / 2024年4月14日 16時0分

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「ブルックリンでオペラを」 (C)2023. AI Film Entertainment LLC. All Rights Reserved.

 いまやセレブ御用達の街に変身したブルックリンで繰り広げられる洒脱なスクリューボール・コメディ――にしては、ちょっとだけテンポが鈍重かしらと傾く首を何度か立て直しつつ、それでも最後までお付き合いしてみようという気になった。そんなふうに観客の辛抱を要求しながら決して後悔はさせない一作、それが、かのマリリン・モンローの夫だったこともある劇作家アーサー・ミラーの娘、というよりミーハー・ファンには現役復帰が望まれる名優ダニエル・デイ=ルイスの愛妻として気になる存在レベッカ・ミラーが自身の短編小説を脚色・監督した新作だ。

 なんだかくだくだしい前置きになってしまったが、原題“She came to me″のSheがいろいろに解釈できる奥行の深さが映画のしぶとい磁力の秘密といえそうだ。素直にとればスランプのオペラ作曲家スティーブンに降ってくる起死回生のアイディア=She、となるだろう。が、そのアイディア源、ミューズとなる恋愛依存症のタッグボートの船長カトリーナ(マリサ・トメイ)以下、売れっ子精神科医で病的に清潔好き、現世を捨てて尼寺へ、を夢見る妻パトリシア(アン・ハサウェイ)、その完璧にクリーンなお家に磨きをかけるハウスキーパーにして不法移民のマグダレナ(「イーダ」「COLD WARあの歌、2つの心」が忘れ難いヨアンナ・クリーク)、その娘テレザ(パトリシア・アークエットを母に持つハーロウ・ジェーン)と一筋縄ではいかないshe=彼女たちのそれぞれの言動、性格付けが観客の興味をそらさぬ映画を逞しく支えていく。

 嵐を呼ぶ女ともいえそうな船長に猛威を振るったハリケーンの名が冠されていたり、聖女の名をもつ母娘がいたり、エレガントにマダム・ルックをきめるパトリシアのモノクロのワードローブに突き刺さる紫のゴム手袋の危なさが目を撃ったり、スクリューボール・コメディをやりたかったと述懐しているミラーのこころざしが細部をしぶとく裏打ちしているのも見逃せない。老婆心から付加しておくと、スクリューボール・コメディときいてうっかりロマンチック・コメディを思い浮かべたくもなるが、本来、両者は別物。常識にとらわれない登場人物、テンポのよい粋な会話、次々に起こる混乱に満ちた物語というのが前者の定義となっている。とりわけ突飛な行動をとる人物の登場というジャンルの徴をぬかりなくふまえるようにミラーが往時の扮装で南北戦争再現ごっこに燃えるひとりを脱線、逸脱の危険も顧みず差し出す様はいっそあっぱれといえるだろう。

 そんな映画にとっぷりと暮れ行くブルックリン沖の水の景色の美しさを添える撮影監督サム・レヴィ、そうして多様性への目くばせに浮つかない錘を寄与するように製作クリスティーン・ヴァションの名が見出せること。本筋でない所にもお愉しみがいっぱいな一作といえそうだ。

(川口敦子)

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