不快でも笑う? 「NO」とは言えない? 最狂作「胸騒ぎ」タフドルップ監督が注目したのは“人間の振る舞い”
映画.com / 2024年5月10日 13時0分
●不快なことをされても笑う “邪悪”に対して瞳を閉じてしまったらどうなるのか
――お話をお聞きしていると、監督は“人間としての振る舞い”を重要視していますよね。
この作品を通じたメッセージのひとつが「もしも邪悪な振る舞いや行動に対して、瞳を閉じてしまったらどうなるのか」というものなんです。これは自分自身の人生にそういうことが起きた場合、あるいは、現代社会にそういったことが見られた場合、どちらのケースにも当てはまることです。
富裕国や先進国では、邪悪なものを目にすることが少ないのではないかと思っているんです。例えば、スカンジナビアで戦争が起きたとしても、僕らはどうやって闘えばいいのかわからないような状況だと思います。日本語で言えば“平和ボケ”ということになるのでしょうか。
邪悪なものと対峙した時、そもそもそれを邪悪なものだと認識できるのか。そして、闘う術を持っているのだろうか。自分自身のことを思い返してみても、不快なことをされた時に、私は思わず笑顔を返してしまったことがあります。あるいは、怖すぎて凍り付いてしまった。そのどちらの反応しかできない自分に気づきました。
それを映像で描くということに意外性が感じられる理由としては、私たちがアメリカ映画を通じて“ヒーローが立ち向かう姿”を見慣れているからだと思います。
例えば、第二次世界大戦中、ナチスの捕虜たちが自分の墓を掘って、そこで殺されるということがありました。綺麗な墓穴を掘ることができれば、もしかしたら殺されずにすむのかもしれないと、彼らは最後まで希望を持ち続けていました。もちろん、そうはならなかったのですが。これはとても人間的なことだと思います。人間としてそのような状況に置かれた場合、どのように振る舞うのか。まさにこれが、掘り下げたいテーマのひとつだったんです。
●ラストの“手法”があまりにも嫌すぎた……決め手となったのは「神話性があるということ」
――クライマックスは、思わず“絶句”してしまいました。特に気になっていたのは、パトリックとカリンが実行した“あるものを投げるという行為”です。これが「あまりにも嫌すぎる」と感じてしまいまして……。目的を遂行するだけであれば、他にも選択肢はあったと思いますが、なぜあのような手法をとったのでしょうか?
パトリックとカリンがラストに選択する“手法”は、究極的な罰の形です。どのような手法をとるかというのは、最初はまったく思いつかなかったのですが、最終的な決め手となったのは神話性があるということ。まるで聖書に出てくるようなイメージもありますし、普段の生活からかけ離れた“高められた世界”になるのかな。ギリシャ悲劇的なものを感じるといいますか……。
ホラー映画はジャンルとして誇張されていると思います。どこか寓話的であったり、ファンタジックであるべきだと考えています。だからこそ、最後の“手法”がピタリとはまりましたし、原始的なメソッドでもありますよね。
そして、ビャアンとルイーセがその場でとることになる“行動”も原始的です。キャラクターたちは文明化されたパーフェクトな生活を送っていますが、それを剥いでしまえば、そこに残るのは“裸の人間”です。文明の多層的なものがなくなる状態で、彼らはクライマックスを迎えます。
ハッピーエンディングではありませんが、ある種「すべてのものを取り除きたい」というのは、人間の根源的な欲求のひとつなのかなと、実は少し思っていたりもするんです。人間は獣でもあるわけですから。社会的な振る舞いというものに興味を抱きつつも、やがては獣的な振る舞いに立ち戻っていく。そういう考えもありました。
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