1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 映画

「河合優実さんでなければ成立しなかった作品」 「あんのこと」入江悠監督が語る、河合、佐藤二朗、稲垣吾郎の素晴らしさ

映画.com / 2024年6月3日 14時0分

――入江監督はデビュー作から一貫して、娯楽映画に「剥き出しの社会と個人」という視点を盛り込んできました。今回もその意識は強かった?

 2020年から21年にかけて社会を覆ったあの空気を、忘れないように記録しておきたい。そういう気持ちはありました。でも、コロナ禍と社会的弱者というようなテーマがあったわけではなく、むしろ記事に書かれていたひとりの女性について、より深く知りたいという動機が先にありました。たしかに彼女の人生は過酷といえます。でもそれは、私の友人たちがそうであったように、少し条件が揃ってしまえば誰にでも起きうることなのかもしれない。と同時に、彼女にも楽しく豊かな時間はあったにちがいない。そう考えたとき、彼女の人生と並走し、その体温を身近に感じてみたくなったんです。

 私はこれまで、物語の着地点が比較的明確な娯楽作を撮ってきました。でも今作は違います。モチーフは実際の事件ですが、撮り終えたときに自分が何を感じているのか、取材を始めた時点では何もわからなかった。他者の人生を勝手に総括し、結論を与えることは失礼だと思ったのです。その意味では初めての挑戦でしたし、これまで培ったノウハウとか方法論はすべて捨てようと、最初から決めて臨みました。

――主演の河合優実さんにはどのような印象を?

 聡明で、独特の魅力を持っている方だと思っていました。実際に今回初めて一緒に作品に取り組んでみて、浮ついたところが少しもなかった。俳優さんは多かれ少なかれ、演技を通じて自分の見え方をある程度は意識せざるを得ないところがあるものですが、河合さんにはそういった作為をほとんど感じないんですね。ただ目の前の役に対して、ひたすらまっすぐ、誠実に取り組んでいく。この人なら杏という主人公を託してもきっと大丈夫だと、そう感じたのを覚えています。

――主人公を描くにあたり、河合さんとはどのようなやりとりを重ねましたか?

 モデルになった女性について関係者から話を伺ったり、薬物についてのレクチャーを受けたり、ふたりでいろいろ話し合ったりしました。撮影前に確認したのは、「この子をかわいそうな存在と考えるのはやめよう」ということです。彼女はひとりの人間として、自分の人生を懸命に生きていた。映画製作の過程では、さまざまなパートのスタッフや俳優たちが把握するため、人物をわかりやすくとらえようとしがちです。でも今回はそうじゃなくて、河合優実さんという俳優の肉体を借りて、モデルとなった女性が向き合っていた世界を、皆で一緒に再発見していきたかったんですね。役者にとっては痛みを伴うやり方ですが、彼女は文字通り全身全霊で向き合ってくれた。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

複数ページをまたぐ記事です

記事の最終ページでミッション達成してください