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【仏芸術文化勲章受章】黒沢清監督のフィルモグラフィを紐解くマスタークラス 「回路」秘話、フライシャー、三隅研次、ロメール作品との共通点も

映画.com / 2024年6月12日 13時0分

 「わかりやすい恨みのようなものは、物語から排除して作ってみよう、それは思い切った決断だったと思います。作っているときは意識していなかったのですが、理由もわからず死んだ人間が幽霊として現実世界に出現する現象、それはわかりづらいものでしたが。人間的な感情を持たない不気味なものが現実に現れることを突き詰めると、SF映画に近づくと思います。文化が破壊され、近未来SFのような様相を呈してくると実感しました。それは、今の多くのゾンビ映画に言えるでしょう。ホラー映画のジャンルを突き詰めると、SF映画に行きつくのかなと思います」と持論を語った。

 次にロジェ氏は、リチャード・フライシャー監督の「静かについて来い」(日本未公開)の一場面を紹介し、「シリアルキラーを警察が追う物語で、その外観のシルエットはわかっていて、顔だけがわからないので、顔がないマネキンを用いている。顔がない犯人というのは黒沢さんの映画のテーマにも共通すると思った。パリのシネマテークでの講義で、黒沢さんはフライシャーのシナリオの構成やカット割りに影響を受けていると仰っていました」と述べる。

 黒沢監督は「自分が映画を作るとは思っていない頃から、フライシャーの作品を知らぬ間にたくさん見ていました。『絞殺魔』の、あるシーンをワンカットであっという間に撮っていてびっくりして、フライシャーが特別だと気づきました。それは当初、フライシャーの個性だと思っていましたが、自分が映画を撮り始めて、低予算のVシネを手掛けた頃、フライシャーのやり方は個性より、経済的原則から導かれたのだと気付いたことが、一番影響を受けたことだと思います」と明かす。

 「商業映画は1日10~15カットしか撮影できない、というわかりやすい原則があるのです。太陽が出て沈むまで、動かしようのない時間の制約があります。それで予算がなくスケジュールがコンパクトな映画を撮るためには、1シーンに3カットしかかけられないのです。ピストルで撃って打たれて逃げるまでのカットをワンカットで撮れる、現場での切実な悩みをワンカットでやる。そういうことはフライシャーが映画史上一番すごいと思います。ほぼ経済的な理屈から割り出されるカット割りですが、フライシャーはそれを超えて、編集されていないことがある種の驚きとなっている。編集によらないワンカットで見せる、そこに映画の表現の原点があるように思い、ずっとフライシャーから影響を受け続けています」と具体的に説明した。

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