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【仏芸術文化勲章受章】黒沢清監督のフィルモグラフィを紐解くマスタークラス 「回路」秘話、フライシャー、三隅研次、ロメール作品との共通点も

映画.com / 2024年6月12日 13時0分

 その黒沢監督の言葉を受け、“敢えてワンカットで見せるという技法”について、三隅研次監督の「桜の代紋」と黒沢監督「CURE」の尋問シーンを続けて紹介し、共通点を探る。

 黒沢監督はロジェ氏の視点に驚きながら、「『桜の代紋』は僕が大好きな映画。あまりフランスでは知られていないようなので、もっと紹介したいと思っていましたが、こう改めて見ると、フライシャーですね。ある種の経済原則で割り出したカットが思いもかけぬ構成になっている。マキノ雅弘もこういう感じです。贅沢なハリウッド映画だったらなん十カットも重ねると思うのですが、たったワンカットで表現され、このワンカットだからこそ伝わる強烈なものがある」と語る。

 そして、ロジェ氏からカメラの位置について言及されると、「『CURE』の取り調べもクローズアップと壁一面だけ。僕はあるシーンを一方向からのみで撮るというやることを時々やります。その方向からずっと見ることによって、そこから湧き上がる映画的興奮のようなものを取り入れたいのです。それはリュミエール兄弟の『工場の出口』、一方向からそこで起こるすべてを見せる、あれをやりたい。映画の基本があそこにあるように思うのです」とその意図を語る。

 ロジェ氏は「黒沢さんの映画のワンカット長回し、フライシャーはもちろん、三隈さんにも見られる技術。三隈さんは職人的な監督ですが、どの映画を見ても彼のカットだとわかる作家性が現れている。フレームの中で別のフレームを入れていくのは、三隈さんと黒沢さんに共通する」と指摘した。

 「理屈ではわからないのですが、カメラがどこから撮っているかは観客にわからせる必要はないのですが、明らかにここで撮っているとわからせることで、強烈にドラマを引き立てることがある。それは撮っているという行為がふと客観性というものを持ってしまう瞬間なのかも。あることが起きているのをそのまま撮るのではなく、窓越しから撮ってみようとしたり。何が違うのかその瞬間はわからないのですが、窓越しから撮ったドラマに客観性や深みが現れる不思議な効果があります。それはフライシャーや三隈研次の作品を見て、僕もやろうとしているのだと思います。また、フライシャーも三隈も面白いのは俯瞰で撮っているのが印象的。それをどこに入れるか、それは監督の才能にかかっていると思う」と補足した。

 ふたりのやりとりは熱を帯び、予定時間が迫った最後に、ロジェ氏はエリック・ロメール監督作との共通点を「感情の流れをじっと見ていくところで、ロメールは言葉を通して表現するが、黒沢さんは沈黙を通して表現していると思います。黒沢さんの『スパイの妻 劇場版』を見てロメールの『三重スパイ』を思い出した」と第2次大戦前夜のパリで、ロシアの元軍人がスパイ活動に従事する姿を当時のニュース映像や夫婦の会話劇を中心に描き出していくサスペンスタッチの物語「三重スパイ」を紹介する。

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