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認知症の父の心の迷宮で見つけたものは… 森山未來&藤竜也、近浦啓監督「大いなる不在」で魅せる居合のような対峙

映画.com / 2024年7月12日 13時0分

認知症の父の心の迷宮で見つけたものは… 森山未來&藤竜也、近浦啓監督「大いなる不在」で魅せる居合のような対峙

 近浦啓監督の長編第2作で、森山未來が主演する「大いなる不在」が公開となる。独創性ある構成に、家族関係、老い、表裏一体の愛憎……と人間の“心”の深淵を描いた普遍的な物語、そして、日本映画界を代表する名優陣の力がみなぎる傑作だ。近浦啓監督、森山未來、藤竜也に話を聞いた。

<あらすじ>
 幼い頃に自分と母を捨てた父が警察に捕まったという報せを受けた卓(たかし)が主人公。久しぶりに父の陽二の元を訪ねるが、そこには認知症で別人のように変わった姿があり、父の再婚相手の義母は行方不明になっていた。父にいったい何があったのかを探る卓と、父の知られざる半生をサスペンスタッチで紐解いていく、ヒューマンドラマだ。

 長編デビュー作「コンプリシティ 優しい共犯」後の第2作に取り掛かろうとした直後に、新型コロナウイルスのパンデミックが起き、2020年4月に近浦監督の実父が急に認知症を発症したことが本作製作のきっかけとなった。

 「僕の人生で初めて、警察から電話がかかってきたんです。『お父さん、保護されました』と。ただでさえパンデミックで世界が変容した非日常の中にいて、それに加えて自分の父親の人格がなくなるように感じた、すごく不思議な時期でした。それまで書いていた別の脚本に対する臨場感がぐっと下がったのを感じました。そして、今の社会や自分自身に今共鳴する、新しい物語を作りたい、そう考えて企画を完全に変更しました。まず出てきたのが“不在”というキーワードでした。2020年の暮れから1年かけて脚本をまとめました」

 不在=卓の父の人生の“そこに在ったものはなにか”を突き止めていく物語だが、本編は時系列では進まない。父、陽二の不可解な行動、そして、この構成が観る者を迷宮にいざなうのだが、アイディアは脚本執筆当初から構想していたものだという。

 「現在の時間軸をすこし昔の時間軸が追う形になっています。そして、映画の最後には、近過去のタイムラインがもう一方の現在タイムラインの冒頭に追いつく。そういう構成を考え視覚的に分かるグラフのようなものを用意し、共同脚本の熊野桂太さんに共有し、一緒に物語を作り上げました」

 主人公・卓は、役者という設定だ。劇中では、まさに現実と虚構の間を表現しているような、実験的な試みが印象的な、演劇のリハーサルシーンが挿入される。

 「撮影前に森山さんと多くのことについてディスカッションをしました。5~6時間2人でいろんなことを話したのですが、当初の脚本にあった演劇ワークショップのシーンに違和感を持たれていました。それは、現実に演劇界でも第一線で活躍されている森山さんならではの視点での率直な意見でした。そのディスカッションの結果、実際の演出家を呼んで、卓としてワークショップに参加するという演劇実験をしようと決めました。その場での即興のように決まった、とても面白いシーンです。森山さんは卓として、(劇作家の)市原佐都子さんは本人として顔合わせをし、ふたりが実験的に朗読劇を作りました。そこでは森山さん演じる卓と本人役で出演している市原さんのリアルな対話があり、僕は朝から夜までそれを見ながら、この映画と卓のことを考え続けました。会場撤収時間ギリギリのタイミングで、3カットだけ映画用にセットアップしたカットを撮らせてもらい、記録したドキュメンタリー的カットとともに『大いなる不在』にマージしたという流れです」

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