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カップルでの鑑賞は要注意!? とりかえしがつかないことになってしまった夫婦の映画「チャイコフスキーの妻」「画家ボナール ピエールとマルト」【二村ヒトシコラム】

映画.com / 2024年9月15日 20時0分

▼愛してくれない人に求婚し、結婚した妻のさみしさを描く「チャイコフスキーの妻」

 「チャイコフスキーの妻」は夫が妻を残して死んでから話が始まって、生前の地獄の夫婦生活が回想されていきます。回想しているのが生き残った妻なのか、もう死んでいる夫なのかよくわかりません。なにしろ死んだ人こそが雄弁だというところから始まる映画です。

 どちらも100年以上昔に(ピエール・ボナールは1867生~1947没、チャイコフスキーは1840生~1893没)実在した著名な夫とその妻を描いているわけですが、もちろん映画の中では死ななかった側も今ではもう生きていません。

 「チャイコフスキーの妻」の妻は、愛してくれない人に求婚して、その「妻に無関心な人」を夫にしてしまいました。19世紀後半の作曲家ピョートル・チャイコフスキーが女性と結婚したけどゲイだったというのはクラシック通の人には知られた話みたいですが、彼はロシアの芸術の英雄なので、それは今のロシアではあんまり大きい声では言ってはいけないことなのだそうです。二重の意味で変な話ですね。

 この映画の監督キリル・セレブレンニコフは演劇を演出したり映画を監督したりするたびにロシア当局から怒られたり自宅から一歩も出るなと命令されて、それでも創作を続ける気合の入った人ですから(現在は祖国を脱出しドイツを拠点に活動しているそうです)もちろんモロにそのことを描きます。描きますが、そのこと、つまり夫がゲイであることは、少なくとも映画の中で妻がああいうふるまいをすることの理由ではないようにぼくは思いました。

 「チャイコフスキーの妻」の妻は、夫になる人がまだそんなに有名になる前から彼のファンでした。ファンではあったのですが、彼が一体どんな人なのか彼女はよく知りません。知らないうちから求婚します。では彼女は、彼の楽曲の熱烈なファンだったのでしょうか。この人は将来、かならず世界的な作曲家になる、だから私は妻となって彼の芸術を支えようと決心して一方的に求婚したのでしょうか。(そうだったのだとしても一方的に求婚したり、それを受けるなんて恐ろしいことですが)どうもそうではなかったんじゃないでしょうか。

 映画で描かれているのは妻のさみしさです。彼女が夫に求婚したのは、さみしかったからなんだろうとぼくは思います。夫が仕事で忙しかったから、夫がゲイで自分よりも男たちと仲がよかったから、彼女の夫への憎悪はつのっていったのではあろうとも思いますが、彼女がもともと(結婚前から)さみしい人だった要因になっていそうなエピソードも映画の中で描かれます。彼女は無意識に自分のさみしさを激化させることがわかっている男を選んだのではないでしょうか。

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