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なぜ日本人のアーティストは政治的な発言をしないのか――金子文子からもインスピレーション「HAPPYEND」空音央監督

映画.com / 2024年10月6日 10時0分

――学生たちのなかで、一番行動的なキャラクターをフミ(祷キララ)という女性にした意図は?

 このキャラクターのインスピレーションになったのが金子文子(かねこふみこ・大正時代のアナーキスト、歌人)という人なんです。1920年代、政治的に怒りを表明した女性で、朴烈(パクヨル)という若い在日朝鮮人の詩人と出会って、関東大震災の直後に逮捕されてしまった。彼女がインスピレーションのもとになったというのがあります。

――この映画のようにストレートに政治性を打ち出したものは、日本映画には珍しいのではないかという印象を受けました。

 僕にとっては逆に、なぜ日本人のアーティストが政治的な発言をしないのか、ということの方が不思議です。僕は映画やアートや音楽に一番教えられるものというのは、人間とは何かということだと思っています。たとえば戦争を描いた映画だったら、いかに戦争が悲惨で人間性を破壊してしまうものなのか、ということを自分は映画から学んだ。表現を仕事にしている人だったら、誰でも当たり前のようにすぐに声をあげるのではないか、その方がふつうだと僕は思っていたのですが、どうやら世の中はそうでもないということがわかってきた。でも個人的には、じゃあ彼らは何をアートから学んできたのだろうと思います。

――5人の高校生(栗原颯人、日高由起刀、林裕太、シナ・ペン、ARAZI)のキャスティングについて聞かせて下さい。ほとんどが、演技経験がなかったというのが信じられないほど説得力がありました。

 数百人のオーディションをしたんですが、本当にそれぞれが一目惚れのように、直感的にこの人だとわかったんです。部屋に入ってきた瞬間に。そのあとセリフを言ってもらっても、演技未経験者が多いにも関わらず本当にうまかったし、話を聞くと、それぞれキャラクターとすごく共通するなにかを持っていた。その5人がとても仲良くなって、いまでも親友のようになっています。完璧な人が見つからない限りは探しつづけるという覚悟でやっていましたが、本当に奇跡的な出会いでした。

――神戸で撮影され、ほとんどは日本人のスタッフと聞きましたが、撮影監督だけは前作で組んだビル・キルスタインですね。日本での撮影にも拘らず彼を選んだ理由は?

 ビルとは僕の最初の短編、「The Chicken」から、ずっと一緒にやっています。本当にあうんの呼吸で信頼し合っていて、彼のセンスも大好きです。何より映画を本当に愛しているのが感じられます。そして技術的に美しい画を作るだけじゃなく、そのシーンに必要なエモーションを掬い取る、気にかけてくれるので、ビルしかいないというのは最初からわかっていました。それで2017年頃、脚本の第一稿ができた段階ですでに相談しました。

――最後に、空監督が一番尊敬する監督というと、どなたになりますか。

 (きっぱり)エドワード・ヤン監督です。

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