「シュルレアリスム100年映画祭」が開幕、巖谷國士氏が“シュルレアリスムと映画”を解説
映画.com / 2024年10月9日 10時0分
そもそも「シュルレアリスムというもの」は、「よく言われるような、詩や芸術を作るための方法論とか技術とか様式とか、そういうことではなくて、世界の見方、人間の生き方そのもの」だと言う。
「世界をどう見るかというとき、まず重要なのはオブジェという考え方です。人間は近代的自我というものを持って以来、外界のあらゆるものを自分と関連したものとして主観的に見るし、資本主義社会では用途、有用性で見てしまう。ところが、実際に世の中にあるものはもともと外に投げ出されたオブジェなのであって、サブジェクト(主体)に従属していない。用途さえもない。そのオブジェの発見がシュルレアリスムの出発点にはあった」と。
そういう世界の見方の一例として、男性用の小便器を横に倒して展示したデュシャンの代表作「泉」を挙げた。「あれはもはや便器という用途から解放され、オブジェに戻されていた。ひとつの見方からすると、すべての“もの”がこの近代の資本主義社会ではある役割、用途を持ち、時には値段のある物品として見られているけれども、デュシャンはそうではないただの"もの"として、便器を提示した。むしろ世界はもともとただの“もの”で成り立っているという世界観も、そこには含まれていた。
たとえば自然物、木や草に咲く花もなる実も、本来は人間にとっての用途ではない。すべて外に投げ出されているもの、オブジェなので、人間の主観とは無関係。そういう意味で、オブジェの思想にはひとつの解放がある。じつは人間も本来はオブジェなので、内面だけで、あるいはそれ以上に、用途や有用性だけで捉えてはいけない。いまの社会では人間ひとりひとりが道具とみなされ、有用性や生産性とかいうものを、政治からも社会からも求められている。でも、もともと人間は商品でも道具でもなく、有用性も何もない単なるオブジェだという考え方から、シュルレアリスムが出発するのです」
そういったシュルレアリスムの見方から、「映画も実はオブジェの現れるもの、人間もオブジェとして映るもの」だったこと、とくにサイレント映画の時代にはそうだったことが指摘される。「言葉のない映像作品では、人間が意味から解放される可能性もあった」という。マン・レイがトーキーへの移行期に映画制作をやめたのも、映画の企業化に反抗しただけでなく、映像を言葉で説明することへの抵抗があったからである。
さらに、シュルレアリスムと映画のもうひとつの重要な要素として、シュルレアリスムの出発点だったオートマティスムということがある。
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