移動映画館で日銭を稼ぐ父親と娘 ロシア辺境の大地と人々を独自の感性で描くロードムービー「グレース」監督インタビュー
映画.com / 2024年10月18日 6時0分
――父と娘はそれぞれの世代を象徴する存在なのですね。世代間の断絶は乗り越えることができると思われますか?
乗り越えることができると思います。しかし、それは芸術の問題というよりは社会学的、政治学的な問題ではないでしょうか。今のロシアは個性が抑えられているので関係が断絶してしまう。ロシアはたくさんの州があって、それぞれ言語も違います。いま、「ロシア連邦」と名乗ってはいますが、それは名ばかりのこと。いつか様々な断絶を乗り越えて、真の意味で「連邦」になることができると思います。
――物語の中盤から少年が登場します。移動し続ける少女とは反対に、少年は村に閉じ込められていて旅をする親子に憧れる。そして、少女と少年は対照的な立場にありながらも心を通わせます。
少女は旅をしながら自分に似ている者を探しているのです。自分がいる世界に馴染めない、周囲から浮いてしまっている存在をロシアでは「白いカラス」と呼びますが、少女も少年も自由を求める白いカラスなのです。だから、少女は少年のことが気になって恋をする。それは愛とまではいかないかもしれませんが、少年は少女の内面が変化するきっかけのひとつです。
――今回の撮影は旅をしながら行われたそうですね。まず下見で一度、監督とスタッフが旅をして、その後、マリアとゲラを伴ってもう一度旅をしてから撮影に挑まれたそうですが、旅で経験したことは映画に反映されていますか。
農家の人、車の修理人など、映画に出ている人々の多くは撮影した場所で暮らしている人たちです。魚が大量に中毒死をしたシーンは、旅をした時に目撃したことを映画で再現しました。パンデミックのなかで撮影した作品なので、世界を大惨事が襲うことを予感させるようなエピソードになっています。また、撮影をしながら脚本を少しずつ変えています。砂漠の中で映画を上映するシーンは後から追加したのです。
――本作が撮影されたバレンツ海沿岸など、辺境の地に興味を持つのはどうしてですか?
私はこの映画で描いた土地を、以前から時間をかけて調査してきました。興味を持つ理由は、非常に魅力的で表情豊かな風景だからです。北極圏にも魅了されています。色調、色彩も素晴らしいですし、夜の美しさは息を飲むほどです。一方、撮影した土地は「帝国」の崩壊の場所でもあります。そこは90年代に人がいなくなり、今や帝国の遺跡と言ってもいいかもしれません。現在、ロシアの一部の人達は帝国を新しく、強くしようとしていますが、本作では帝国の遺跡に焦点を当てています。
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