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「石板のように映画を残したい」川上さわ監督、20歳での初長編作「地獄のSE」インタビュー

映画.com / 2024年10月27日 8時0分

川上:現場ではみんなで自由に動画やスチールを撮りまくっていました。それは劇中の中学生たちがカラオケに行ったりする日常のノリにも近くて。あのアゲハチョウの死骸もスチールの兒崎が本人視点で撮ってくれた映像なんです。いろんな視点を作品に取り込めたのがすごくよかったし、「地獄のSE」のこのイメージは場面写真よりスチールの方が伝わると思っています。

小原:場面写真よりスチールの方が伝わる映画……なるほど。

川上:この映画を露悪的にはしたくなかった。絶対に。優しい話ではないけど、優しさがない話ではないし。キュートでポップだし、見ながら笑ってほしい。絶望を取り扱ってはいるけど、前には進もうとしている作品だから。人がちゃんと日常を過ごしながら、恋をして、遊んでみたいなことをやりたくて。そのイメージが兒崎がフィルムで撮ってくれたスチールには出ていると思います。

▼複雑さと対峙した時に詩が生まれる

小原:「どこにもない海辺の町」があの異質な劇空間に囲われていることで「どこまでも架空の青春映画」としてエフェクトしてくる。実体があるようでない、ないようであるみたいなエフェクト。この奇妙な感覚に川上さんのフィクションとの距離の取り方が表れているし、タイトルの「地獄」もそこに繋がってくる気がします。

川上:地獄は昔から興味があって、地獄の本とかよく読んでいました。変な罰とかめっちゃあって、でっかい風呂釜とか犬に噛まれるとかヤバ(笑)って。そんな罰に対して生きてる人間は真剣に嫌がっていたり。地獄行くの嫌だから悪いことしないみたいな。日常的にもいやな言葉として使ってるし。地獄だ~とか。深刻さとコミカルな部分がつながっている。「地獄のSE」というタイトルもそんな慣用句として作りました。

小原:実は「地獄のSE」は今年一番笑った映画でもあるんだけど、そのなかで描かれているものは人の心の暗い部分も少なくないから、一本の映画を通して何ともいえない複雑な味わいが醸成されていきます。

川上:私の場合、複雑さと対峙した時に詩が生まれると思っています。複雑さと対峙することは大変なことで、だから映画を撮りたいと思ったし、「地獄のSE」の画面は複雑な現実に対する心象風景にしたかった。カメラは現実にある物体をそのままそのものとして写しますが、カメラでただ写すより現実に生まれるイメージはもっと複雑だと思うのです。実際の問題としても、いろんな感情を持ちながらそれを細かく精算せずに大きく精算してしまうことで悲しいことが起きてしまう場合がある。もっときちんと対峙できていたら、避けれたかもしれないことってあると思っていて。

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