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「ANORA アノーラ」「リアル・ペイン」、エルトン・ジョンのドキュメンタリーも! 今年のニューヨーク映画祭で注目した5本を紹介【NY発コラム】

映画.com / 2024年11月10日 9時0分

 そんな状況下で作られたのが「The Seed of the Sacred Fig」だ。今年のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、ラスロフ監督が特別賞を受賞している(なお、ラスロフ監督は、イラン当局によって、8年の禁錮刑、鞭打ち、財産没収が確定したことで国外に脱出。その後、カンヌでのプレミアに姿を現したことも話題となった)。

 主人公は、革命裁判所の裁判官に任じられた亭主関白な男イマン。テヘランやその他地域で起こる抗議運動にとてつもない不安を抱いていたことで、身を守るために拳銃を所持することになる。ところが、ある日、その拳銃が紛失。妻や娘たちを疑うだけでなく、周囲までも信じられなくなっていく。そんななかで社会の規則が崩壊していくことに気づき、家族にまで過酷な対応をし始めていく。

 映画の魅力は、なんといっても、イマン役を演じたミサグ・ザレ。家族を威圧する挑発的な演技が圧巻だ。イランのテヘランに住んだことのある筆者にとっても、前半部分ではイランの典型的な家長制度を彷彿させるシークエンスが繰り返されていたが、進歩的な価値観を持つ2人の姉妹やそれまで夫に迎合していた妻が、父親の姿勢に反旗を翻していく姿が興味深く描かれている。上映時間も2時間48分という長尺だが、鑑賞後は重厚な社会派映画としての印象を植え付けられた。

●「Emilia Perez」

 「真夜中のピアニスト」ではセザール賞8部門を獲得し、「預言者」ではカンヌ国際映画祭のグランプリを収めたジャック・オーディアール監督の新作は、優れた女優陣の演技でカンヌのアンサンブル賞と審査員賞を獲得した話題作。

 ストーリーは、メキシコの麻薬カルテルのボスが、危険な過去を捨てて、性別適合手術を受けて女性エミリア・ペレスに生まれ変わるところから始まっていく。やがて“麻薬カルテルのボスは亡くなった”という設定の処理を女性弁護士に頼んだことから、さまざまな展開が巻き起こる犯罪ミュージカル映画となっている。

 まず、フランス人監督が全編スペイン語で作品を手掛けているという点も挑戦的で興味深い。なんといっても元麻薬カルテルのボス役のカルラ・ソフィア・ガスコンの圧倒的な存在感がこの映画の魅力だ。弁護士役のゾーイ・サルダーニャと妻役のセレーナ・ゴメスの歌唱力も見逃せない点のひとつだろう。

 映画は、サスペンススリラー調のミュージカルでありながら、メロドラマもあれば、ド派手なアクションも含まれていて、ジャンルにこだわらないクロスオーバーな演出を施したオーディアール監督の手腕が見事。ちなみに、オーディアール監督によると、今作は全てスタジオで撮影したそうだ。全くそれを感じさせないプロダクションデザインと、わざとらしくなく、シームレスにミュージカルシーンが繰り広げられていくのも興味深い。

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