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「天保十二年のシェイクスピア」で浦井健治の挑む醜い悪党が「まるで無理しなくていい役だった」という衝撃!【若林ゆり 舞台.com】

映画.com / 2024年12月10日 10時0分

 言葉の使い手である三世次のセリフには、井上ひさしが魂を削って書いた言葉が躍動し、井上自身も投影されているような気がしてくる。

「三世次が井上さんの分身だとしたらよほどの怒りを抱えていたのかもしれないですが、どの人物にもご自身を投影している部分があるのかもしれないと思います。言葉というものが人にどう影響するかとか、言葉がどれだけの武器、もしくは凶器であるかをまざまざと見せられますし。例えば嫉妬だとか疑念だとか、そういったものを言葉で操れば、人間は脆くも崩れるんですね。何が正しいとか正しくないって表裏一体というか、そういう人間の危うさみたいなものを、シェイクスピアはどの作品でも書いています。そこに井上さんは惹かれて、この脚本に集約したんだろうな、と想像しますね」

 前回の公演から4年を経ての稽古場は、「猛スピードで進みながらすごく作品を深めていけている」という実感があるそう。

「今回、稽古の進みが早いのは、やはり4年前のことをみんなが覚えていて、だからこそセット転換も含めて迷いがない。そこがこの稽古場の強みだと思うんです。普通はいろいろ試行錯誤をしてから到達するじゃないですか。たとえば、階段に逆さ吊りになって、なじりながらセリフを言うなんて、いきなりは出ないですよ。でも、一生さんの演技をそのままやることで、そこから噛み砕いていけるのは強みですね。それに、隊長という役を、蜷川幸雄さんが演出された05年の上演時から演じておられる木場勝己さんの存在も大きい。木場さんのアドバイスからいただける気づきは、大きな財産になっています」

 浦井自身はシェイクスピア作品の出演経験がかなり豊富だと言えるが、これまで演じてきた役は、「ヘンリー四世、五世、六世、七世」と、薔薇戦争で言うところの赤薔薇派、ランカスター家の人物ばかりだった。

「やっとヨーク家、白薔薇側の人間を演じることができるんだ、という喜びがありました。いつかは、とずっと思ってきましたから。リチャード三世のような人物は、生への渇望や業といったものを描きやすく、エネルギーを発散しやすい。彼の抱える闇が際立てば光が際立ち、光が際立てば闇も際立つという、相乗効果を生む役だと感じます。もちろんシェイクスピアの37作品を知っていれば『あの役だからこういうことを言うんだ、あの役のセリフをこの役に言わせているんだ、面白い!』と思える」

「また、江戸の歴史、天保年間のことを知っていれば、これもまた面白いですよ。井上さんがどれだけのことを調べ、どれだけのことを詰め込んだかがわかるから。でも、シェイクスピアも日本の歴史も知らないまま見ても、時代が移り変わる時に、どうやって人が苦しんで、もがいて、結果どういうことが巻き起こったのか。そういう人間模様を見ていただく作品として成立していると思います」

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