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ファッションにおける心理学、社会学が存在する伊賀大介氏の仕事 「ジョゼと虎と魚たち」から近作「PERFECT DAYS」「地面師たち」をチェック【湯山玲子コラム】

映画.com / 2024年12月15日 11時0分

 めったに外に出ず、家の押し入れの中で古本を読みふける毎日を送っているジョゼの出で立ちは、チャイニーズっぽい赤いサテンのブラウス、プーマのロゴ入りジャージトップス、薄手の水玉ワンピースの下にはタートルネックセーター、柄物の靴下などなど。それぞれの単品は、古着愛好家として知られる、伊賀の面目躍如的アイテムだが、カッコよさを思いっきり押さえて、それらが拾いもののゴミであることと、ジョゼが引きこもる「城」、つまり人目の無い楽園での好き勝手の装いであることが豊かに表現されていく。

 しかし、ジョゼがボーイフレンドとともに、外の世界に出かけていくときのファッションには、その気ままな猥雑さが消え、「着こなし」という社会性がきちんと現れてくる。伊賀大介のスタイリングには、そういったファッションにおける、心理学、社会学がきちんと存在するのだ、そう、人間は、人目を気にすることで着るものが変化するのである。

 主人公のキャラを表す補助線としての衣装は、ジョゼの恋敵となるモテキャラ女子大生にも思う存分発揮される。淡いピンクのケーブルニットのタートルは、コンサバなモテのファッション記号。そのピンクは次には、ジャケットやプルオーバーとなり、ミニスカートと組み合わされるその足には、男性の視線が刺さることを見越しているようだ。それだけならば、単なる男受けコーディネイトだが、伊賀大介は常にその首元に、手編みのグランジストールを加える。この手のモテキャラ女子がよく使う、欲望のカモフラージュ作戦だが、ほとんどの男性監督は、そういう、ビジュアル言語を理解できない。伊賀大介が映画界で重宝されるのは、その卓抜な「読み」にあるのだ。

▼「地面師たち」犯罪バイオレンスものでも光る才気

 話題の「地面師たち」衣装クレジットにも伊賀大介の名前を見つけた。豊川悦司演じるところの地面師グルーブのボスは、ハンニバル・レクターを思い起こさせる、悪の哲学と美学を持ったサイコパスだが、常に仕立ての良い、ブラウン系のスーツを着用。シャツはバープル系で、茶と紫の組み合わせは、ヨルゴス・ランティモスも「憐れみの3章」使用した、イッちゃっているタイプの御用達。

 能力も高く、気っ風もいい、小池栄子演じるところの手配師は、赤のトップスを多用し、一見キャリアウーマン風だが、その足下がミスマッチな白のミュールサンダルだったり、量販店で売っていそうなタンクトップをたまに着たりで、元ズベ公だっただろうという素性がバレバレ。と、このような小ワザの一方で、乱交上等でホストに入れあげる大地主の尼僧のデートファッションには、総レースが肌に張り付くような肉感度マックスのトップスを着せて、笑っちゃうほどのエロ仕様。

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