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ファッションにおける心理学、社会学が存在する伊賀大介氏の仕事 「ジョゼと虎と魚たち」から近作「PERFECT DAYS」「地面師たち」をチェック【湯山玲子コラム】

映画.com / 2024年12月15日 11時0分

▼映画のカルチャー記号の使い方には違和感

 しかし、物語が進むごとに気になる「雑音」が入ってくることになる。そう、その静謐な日常描写には、主人公の人となりをを表す本や音楽の断片が差し込まれるが、それらによって彼の人物像に、「紋切り型の文化系オヤジ」というある種マーケティングっぽいタグがつけられてしまったのだ。

 人物は、本棚とレコード棚のラインナップでわかってしまう、といわれるが、さて、その本に関してのラインナップは、フォークナー、幸田文にパトリシア・ハイスミスが選ばれる。申し訳ないが、それらはカルチャー雑誌の本特集で選ばれ、ブックディレクターが選ぶデザイナーズホテルの本棚のごとし。いろいろあって、現在の方丈記的清貧生活を送主人公を代表させるには、どうも納得がいかないのだ。この中で幸田文だけが、主人公が古本屋で購入する本なのだが、主人公の現在の心模様を強烈に表現してしまう重要局面としてはモヤモヤ感が残った。

 主人公が愛聴する音楽も同様。タイトルにもなったルー・リード楽曲はともかく、パティ・スミス、金延幸子と、これも業界教養的ロックアイコンが並ぶ。いやいかし、主人公の年齢の音楽好きのリアリティーとしては、パンクロックではなく、絶対にブルース、ソウルミュージック方向なはずですよねぇ?

 おまけに、石川さゆりを起用したスナックのママが歌うのが、ちあきなおみの「朝日の当たる家(朝日楼)」なのですよ。こちら、昭和歌謡マニアの発掘成果のひとつとして知られる楽曲で、どうみても 普通のスナックのママが歌うリアリティーは皆無。この場合は、「天城越え」でしょ。ご本人じゃないか! とツッコミが入りそうだが、それはそれで、このミニマルな映画時間の中では、ユーモラスに面白かったのにね。

 こういう作品の質を決定してしまう、超重要なディテールアドバイスは、本当に取扱注意なのだ。この作品、上記のカルチャー記号だけを全取っ替え、もしくは消去すれば凄い良い作品になったのに……。寡黙で展開が少ない映画だからこそ、伊賀大介は、隙がなく、主人公の内面を想像させうるスタイリングを実行したのに、その強度が大減速してしまった感あり。

 というわけで、急ではありますが、伊賀大介さん、オペラの舞台衣装、やってくれないかな。ジョゼで見せた「貧乏エレガンス」は、プッチーニの「ラ・ボエーム」にぴったりだし、ミニマリズム感覚は、フィリップ・グラスの「海辺のアインシュタイン」などを蘇らせてくれると思うのですよ。

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