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ファッションにおける心理学、社会学が存在する伊賀大介氏の仕事 「ジョゼと虎と魚たち」から近作「PERFECT DAYS」「地面師たち」をチェック【湯山玲子コラム】

映画.com / 2024年12月15日 11時0分

 こういった犯罪バイオレンスものは、役柄が記号的にわかった方が良いので、スタイリングにそれほどの自由度はないが、そんなお仕事でも、伊賀の才気は光る。

▼ヴィム・ヴェンダース「PERFECT DAYS」、タイアップくささを感じさせないスタイリングの妙

 インタビューで、彼はもともと映画ファンであり、スタイリングに際しては、監督に登場人物のキャラやイメージを深く聞き込むのだという。ジョゼ以降、多くのヒット映画の衣装を手がけることになるが、彼が敬愛する監督、ヴィム・ヴェンダースが東京を舞台に撮り下ろした「PERFECT DAYS」でも、その才能を大いに発揮していた。

 主人公は役所広司演じるところの都内の公衆トイレの清掃人。下町のボロアパートに暮らす彼の生活環境は、「起きて半畳寝て一畳」を地でいく、必要最小限のモノしかないミニマリスト空間。質の良いベーシックウェアを丁寧に着続ける彼が履いているのは、清掃人にとっては汚れが気になりそうな白いスニーカー。と、このイントロ部分の主人公のファッションだけで、過去に彼がそういったこだわりを持てるだけの財力と文化資本を持っていた、ということが一発でわかってしまう。

 ヴェンダースは、この主人公に、鴨長明「方丈記」に描かれた、仏教的な無常観と清貧を生きる隠遁者を重ねたに違いなく(彼が読んでいなくとも、このイメージはその後の数々のコンテンツによって、日本の美意識として発信されている)、それは彼が掃除して回る、デザイナーズトイレともいうべき公衆便所の未来的な存在とともに、外国人が求めてやまないクールジャパンの姿だ。

 と、ここで気がついてしまうのが、それってユニクロがずーっと仕組んできた、日本発のシンプルライフスタイルウェアのコンセプト、まんまなのでは?! という想いである。実は、映画を観てから後に知ったのだが、実際この作品、東京オリンピック開催を背景に、ユニクロの柳井康治氏(ファーストリテイリング取締役)が個人のプロジェクトとして推進してきた「THE TOKYO TOILET」が背景にあり、タイトルロールにはユニクロのロゴが燦然と輝く。

 しかし、そのバックグラウンドが明かされても、伊賀のスタイリングと、ヴェンダース監督独特の光と影の映像美、タイム感と、台詞のほとんどない主人公の役所広司から伝わってくる存在感の三位一体が成功しているので、タイアップくささは無い。主人公のシャツがはためくたびに、こういった清貧の男が晩年になって到達した、豊穣な精神と生き方に思い至る。

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