生活困窮で消費者金融に走る人に待った!作家・雨宮処凛が語る「行政の制度を利用しないと損」
エンタメNEXT / 2024年4月10日 6時0分
写真はイメージです(画像:ピクスタ)
2006年から貧困問題に深く取り組んでいる作家・活動家の雨宮処凛。現在発売中の最新刊『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)では、「働けなくなったら」「お金がなくなったら」「親の介護が必要になったら」など誰もが抱く不安について、社会保障を使いこなすコツや、各種相談先など、必要な情報を各々の専門家に取材し、一冊にまとめている。自身も「一人暮らしで単身、この先が不安で仕方ない」と語る雨宮氏に、不安定な社会で生き延びるための知恵を聞いた(前後編の前編)。
【画像】発売中の最新刊『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)
「もうすぐ50歳になるんですが、一人暮らしで単身、仕事はフリーランスで、この先、無事に生きていけるのかの保障がまったくないんです。貧困問題には18年間携わっているので、生活が困窮した時にどうしたらいいかという情報だけは無敵といっていいほど持っているけど、親の介護や相続について、病気になった時の対処法などは、詳しくは知らない。そういう〈誰もが持っているこの先の不安〉について、予めどう備えておくか、いざ問題に直面したらどうすればいいのかっていう情報をすべて網羅した、『これさえあれば』っていうような本があったら、みんな生き延びられるんじゃないかって考えたんです」
これまで生活に困窮している人からの相談を多く受けてきた雨宮氏だが、最近は「両親が毒親なので、老後の面倒を見たくない」「もしも新型コロナで死んだとしても、親に連絡がいかないようにしたい」というような相談や、専門家などが介入しないと解決できないような問題を相談されることが増えてきたという。そういう問題を抱えた人たちは、どこに相談すればいいのか。そういった情報が広く知られてほしいという思いも、この本を書こうと考えるに至った動機のひとつだという。
「『家計の負担を軽くしたい』というものから『相続の時に親族が争うのを防ぎたい』『自分の死後、ひきこもりの子が生きていけるのか心配』といった、生活全般の相談に対して、国家資格を持つ専門職が対応してくれる『相談室ぱどる』という民間の有償サービスがあるんです。わたし自身も何度か対応してもらってきたんですが、これまで何十年も毒親の干渉に苦しんできた人に『相談室ぱどる』を紹介したら、あっという間に解決したことがあって。『相談室ぱどる』のような民間サービスが成立するほどに、家族や生活のことで困っている人ってたくさんいる。そういう人たちに役立つサービスや、公的支援をまとめたいと思ったんです。自分のために書いたようなところもあります」
親の介護や自身の健康など将来のことを考えると不安は尽きないが、貧困についても、誰しもが決して他人事ではない。派遣を切られたり、病気や怪我などで働けなくなったりと、誰しもが突然にして、困窮する可能性はあるからだ。
「例えば、先月は20万円稼いだけど、貯金もなく今月は10万しか稼げないっていう状況の人は、生活保護の対象になる可能性が高いんです。この場合、最低生活費に足りない差額の3万円ほどが給付される可能性があります。一方、収入ゼロで東京でひとり暮らしだったら、家賃にあたる住宅扶助費が5万3700円まで出て、そこにプラス生活費で8万円くらい。もちろんいくつかの条件はありますが、持ち家があっても都内だと3000万円以下の資産価値であれば生活保護は利用できるし、車も通勤や通院に必要と認められれば所有したままで大丈夫です。生活保護って、一度受けると一生受け続けることになるって誤解も多いみたいですが、働ける人は『働いてください』ってすごく言われるし、働き始めて収入が生活保護費を上回ったら打ち切りになる。
だから困った時に利用して、生活を立て直したら卒業っていう形で利用すればいいんです。それこそ3ヶ月で必要としなくなる人なんて話は普通にあります。また、失業などで家賃が払えないということなら、住居確保給付金というものがある。原則3ヶ月給付ですが、最大9ヶ月まで延長ができます」
生活保護は、いよいよ生活が立ち行かない状況になってから受けるものという印象もあり、心理的ハードルが高く思えるが、今月足りない分の3万円ほどを行政に頼ると考えればぐっと気が楽になる。しかも借金とは違い、生活保護は返さなくてもいいお金だ。住居確保給付金もしかり。困窮しているのなら遠慮することはない。
「家賃が払えない、生活費が足りないというと、消費者金融に走る人って本当に多いんです。でも、民間のサラ金みたいなところから借金するくらいなら生保を受けたほうがいい。だって、日常生活を回すお金を借金する時点で、生活は破綻しているわけです。民間の借金は利子がかさむから、なかなか債務は減らない。それでずっと苦しみ続けるんだったら、最初から生保を利用したほうが、自分の持ち出しなしで生活を立て直せる。ずっと賢くないですか」
例え、困窮の原因がギャンブルや風俗であっても、生活保護を受けることはできる。困窮に至った理由などに関係なく、無差別平等に受けられることが原則だからだ。もちろん、生活保護費を無駄遣いすればまたもや生活は困窮することになるので、受給後は金の使い方を改める必要があるが「自己責任」という言葉は一旦忘れて、もしも借金をしないと生活が回らないという状況になった場合においては、消費者金融ではなく生活保護で足りない分だけを補うほうがずっと賢明だ。
「生活保護よりもよりライトに使える制度もあります。社会福祉協議会の生活福祉資金の緊急小口資金です。これは緊急かつ一時的に困窮する世帯の自立を支援するための制度ですが、無利子で10万円以内が借りられます。また、失業などで困窮した場合には生活を立て直すために使える総合支援資金というものもあります。家賃を下げるために引っ越しをしたい、けれども、引っ越し費用がないって場合ってあるじゃないですか。敷金礼金などの転宅のための費用として、住居入居費の名目で40万円まで、債務整理や家賃滞納などは一時生活再建費ということで、60万円までの貸付が受けられるんです。
給付ではなく貸付なので、返済が必要ですが無利子(総合支援資金の場合、保証人がいたら無利子、いない場合年1・5%。緊急小口資金は無利子で保証人不要)。生活の困窮を理由に民間で借金をするくらいなら、こっちを利用したほうがずっといいと思います。だって制度としてあるんですから。日本には、このように痒い所に手が届く制度があるけれど、誰にも知られていない。こんな状況を指して『メニューを見せてくれないレストラン』という表現をしたのは反貧困ネットワークで事務局長を務めた湯浅誠さんですが、まさにそう。行政が用意している社会保障制度はたくさんある。けれども、それを向こうからは教えてもらえない。だからこそ、情報を知っていることが必要なんです」
『死なないノウハウ』には、こうした日本社会の生き抜くためのサバイバルするための様々な情報が多岐に渡って紹介されている。情弱を脱することこそが、生き抜く術の際たるもの。その入門書として御守り代わりに一冊、手元にあるといざという時に役に立つのではないだろうか。
【後編はこちら】死後、預金やサブスクはどうなる?作家・雨宮処凛が語る“損しない”技「情報と知識がすべて」
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