公共インフラが危ない?整備が遅れ、財政負担もズシリ
ファイナンシャルフィールド / 2020年8月6日 11時0分
電力、ガス、水道、交通、通信などの公共インフラは、多くの人の生活に欠くことのできない必需品です。 しかし、一度できあがったものでも、放置し続けると事故などが起こるため、常に修理・保全が必要になります。そのためのコストを誰が負担し、機能を維持していくのかは大きな問題です。
民間企業により整備されたインフラ
日本では、電力、ガス、通信などの事業は、民間の企業が担っています。例えば、電力については東京電力や関西電力、ガスについては東京ガスや大阪ガスといった民間の事業者です(都市ガスのない地域はプロパンなどを小規模事業者が提供している)。
最近でこそ料金自由化が進み、新規参入企業も増えましたが、以前は地域独占を企業として認められ、供給体制に対しては責任を負ってきました。電話など自由化が進み料金も安くなった通信分野でも、自由化以前は日本電信電話公社が、独占的に事業を展開していました。
こうした分野のサービスは課題もありますが、停電が多い、ガスが供給されない、電話が通じない、といった事態は、災害時を除くと日本ではあまり起こりませんでした。
利用料金も安くはありませんが、一定の条件のもとで政府が認可する方式がとられてきました。災害対応については課題はありますが、電力、ガス、通信の分野では、自由化を進めることで、利用者の負担も多少軽減されつつあります。
水道事業が抱える深刻な課題
それに対して、問題なのが水道事業です。水道は電力やガスのように民間企業が提供していまません。多くが地方自治体が中心となって提供しているため、地域によってサービスに大きな差があります。供給世帯数や水源確保状況により、水道料金も大きく違ってきます。
例えば、25リットルの水を毎月使用する家庭の水道料金も、安い自治体では2000円前後ですが、高い自治体になると6800円前後となり、大きな差があります。住んでいる地域により、住民が多額のコストを負担することになります。
水道事業の最大の課題は「設備の老朽化」です。耐用年数を超えた水道管が非常に多いにもかかわらず、財政状態が苦しく新しい水道管への交換作業が遅れています。
近年、水道管の破裂事故なども頻繁に発生しているほか、末端までに届くまでに多くの漏水が発生し、事業効率を悪化させています。
本来ならば設備の交換が必要な時期なのですが、収益が悪化している自治体も多く、交換作業が進んでいないのが実情です。とくにコロナ禍の影響で自治体の財源はいっそう厳しくなり、今後どの程度改善が進むか難しい問題です。
水道事業の問題点として「慢性的な赤字体質」もあります。事業主体が自治体のため、広域供給体制がとれない、料金値上げに限界がある、人口減で給水量が減る、という収益面ではトリプルの苦境に立たされています。
そのため、料金の値上げと広域供給体制の整備が進まないと、事業が行き詰まる可能性があります。首都圏の自治体の多くが、大幅な値上げが現実となっています。
今後、人口減少が急速に進むため、自治体の枠を超えた連携が必要で、水道事業に携わる人員を確保し、値上げ額を抑える努力が求められます。
一般道の安全は確保できるか
2007年ころまでは、ガソリン税を道路特定財源に充て高速道路建設が推進され、日本全国に高速道路網が整備されてきました。到底財源がなくなったことで、高速道路以上に課題となるのが一般道の整備です。
通常、国道に関しては国が、県道や市町村道に関しては、それぞれの自治体によって保守・整備が行われます。
問題はやはり財源です。道路の最低限の舗装・修理は実施されるとして、老朽化している橋梁やトンネルの保全が十分とはいえません。水害や崖崩れによる道路の損傷や橋梁の流失も、近年増加しています。とくに国道に比べ、県道など地方自治体が管理・補修の責任がある橋梁などは整備の遅れが目立ちます。
老朽化の程度に応じて修繕や架け替えが必要ですが、予算が十分に付けられないために、安全性に疑問が出ている橋梁などが結構多いのです。市町村道ではさらに予算がないため、危険箇所を通行止めにしたままで放置しているところもあります。
また県道レベルの道路では、県境を挟んで整備された道路と整備が行き届かない道路とになるため、通行するドライバーからの苦情も出ています。
国が交付金を出し、老朽化した橋梁やトンネルなどへの修繕を促していますが、遅れ気味です。一方でひとたび害水害などに見舞われると、さらなる復旧工事を国の支援を受けて行う必要が出てきます。
小中学校の統廃合で教育インフラにも影響
少子化と人口減少は小中学校などの統廃合が進み、地域によって大きな影響を受けています。
過疎化が進む地域だけでなく、大都会でも小学校や中学校が消えていくという事実には驚かされます。教員の数も減少が続いています。公民館や集会所などの人々の集まる施設も、老朽化が進むと財源難を理由で、解体されるケースも多くなっています。
この15年ほどで、最も小学校の数が減った地域は、面積が広い北海道ですが、東京が全国でかなり上位にきています。
北海道では、過疎化で児童数が減り、統廃合されることが進んでいるため、その分、通学距離や通学時間がかかり、送迎などに父母の負担が増大し、社会インフラの恩恵を享受できない地域が増えています。
意外なことに、東京でも小中学校の統合が進んでいます。最大の理由は少子化の進行です。都内の周辺区や多摩地域では、団塊の世代が学齢期を迎えた1950年代から、多くの小中学校が新設されました。しかし、最近では1学年1クラスがやっとという学校も増え、急速に統廃合が進行しています。
港区・中央区・江東区など、タワーマンションの建設に伴う若い世代の流入で、新規開校を行っている区もありますが、かなり限定的です。行政サイドでは、社会インフラにかかる経費を、なるべく削減したいという意図も読み取れます。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
監修:中嶋正廣
行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、資格保有者。
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