「女か、母さんか決めて!」不倫する父に娘が怒りを爆発させた修学旅行の“裏切り”
Finasee / 2024年9月5日 17時0分
Finasee(フィナシー)
妻と子との別れを経験した父親
東北地方在住の下島麻鈴さん(仮名・50代)の父親は、26歳のとき、同年齢の女性と結婚し、翌年男児に恵まれたが、女性は病死。男児は女性の親族に引き取られた。
「腹違いの兄とは一度も会ったことがなく、父も音信不通だそうです。和菓子職人を目指していた父はとても貧しく、自分の母親を亡くしていたため、兄を手放してしまったことをずっと悔いていました」
父親は30歳で和菓子職人になるのを諦め、知人の紹介で市役所に勤め始めた。同じ年、10歳下の女性と見合い結婚し、翌年下島さんが生まれた。
「父の前妻は綺麗な人だったらしく、死別という事実が母には重く感じられ、ずっと自分は“二番手”だと引け目を感じていたようです」
下島さんが物心ついた時、両親の仲は良くなかった。
「もしかしたら母は、発達障害や軽度の知的障害があったのかもしれません。両親は会話が噛み合わず、もともと短気な父はいつも母を怒鳴っていました。母は自分を守るために嘘をついて誤魔化すところがあり、『お前はどうしてそんな嘘をつくんだ』と言って泣いている父の姿を幾度も見ました。今のように情報やサポートもない時代ですので、理解に苦しみ続けていたのかもしれません。父は30歳のときに心身症とうつ病と診断されて何度か入院しており、母も職場でいじめの対象にされ、うつ病を発症して何度か入院しています」
母親がうつ病を発症したのは、結婚後に引け目を感じていたことや職場のいじめ。父親が心身症とうつ病と診断されたのは、最初の妻との死別と、子どもを手放してしまったこと、そして菓子職人の仕事が上手く行っていなかったことが大きな要因と思われる。
下島さん自身も、クラスメイトや教師、親族たちと上手くコミュニケーションがとれず、いつも一人でいた。「太っていて身だしなみにも無頓着だった」せいか、クラスメイトのみならず担任の教師からも容姿や勉強ができないことを揶揄されて不登校になった。
「父は公務員でしたが決して裕福ではなく、母も働いて家計を助けることで精一杯だったため、子育てまで手が回らなかったのだと思います。躾られたという記憶もなく、身だしなみを整えるということも知りませんでした」
初めて友だちの家に遊びに行ったとき、友だちの親から、「他所の家に上がったら、『こんにちは、お邪魔します』と言うんだよ」と教えられたという。
父親の不倫下島さんは小学校4年生の夏、父親に連れられて海水浴に行った。浜辺に着くと、父親の同僚だという女性とその息子がおり、4人で遊んだ。女性の息子は下島さんより1〜2歳上で、下島さんの父親に懐いている様子はなかった。
帰宅すると下島さんは、「どっかのオバちゃんと子どもと海に行った」と仕事から帰ってきた母親に報告。
その時の母親の表情を見た瞬間、「言ってはいけないことだったんだ」と激しく後悔した。その後、その女性から「旦那さんと別れて!」という電話がかかってくるようになり、母親はいつも困惑していた。
子どもの頃から下島さんは、両親の夫婦喧嘩を何度も目の当たりにしてきた。中でも強烈に脳裏にこびりついているのは、父親の足にすがりつき、「捨てないで〜!」と泣いている母親の姿だった。母親は常に父親の顔色を窺っていた。
子はかすがい下島さんは高校2年生になった。修学旅行に京都へ行く数日前、父親から1万円札を渡され、「飾り物でも買って来てやって」と頼まれた。1万円札は不倫相手からの餞別だった。
旅行中下島さんは、長年不倫を続けている父親への怒りが抑えられなくなり、人形やこけし、五重塔や金閣寺などの置物、陶器の湯呑など、わざと嵩張るものを買い込んだ。
修学旅行から帰ってくると、多くの親は駅まで迎えに来ていたが、下島さんの親は来ていない。1万円分のお土産で荷物が重いうえ、迎えにも来てくれていない父親に対し、さらに怒りが増した。
下島さんは家に入るなり、父親の前にお土産をぶちまけると、「女と別れるか母さんと別れるか、決めるまで帰らない!」と言って家を飛び出し、友だちの家に駆け込んだ。
「『アンタの愛人のためにこんな重い荷物を持ち歩いていたのに、迎えにも来ないなんて!』と腹が立ちました。でもすぐに父から電話があり、『俺が悪かった。相手とは別れたから』と言って、迎えに来てくれました」
この日を境に父親は帰宅が早くなり、家にいることが多くなった。
「多分、父にとっては母よりも、娘である私の存在が大きかったのだと思います。そしてそれは、前妻との子を手放したからではないかと想像しています」
突然の介護下島さんは29歳で10歳年上の男性と結婚。しかし7年後に離婚した。
「元夫は、私の体調が悪いと不機嫌になり、話し合おうとしてもフテ寝してしまいました。意見の相違があった時に話し合えないことは、『一生添い遂げる相手ではない』と思う大きな要因になりました」
それから3年後、下島さんは機械関係の仕事をする2歳上の男性と出会い、交際に発展。その頃、長年膝関節が湾曲する病気を患っていた父親は、主治医から人工関節手術を勧められていた。
「人工関節には耐用年数があり、若い年代ですると、のちに再手術をしなければならないそうです。そのため父は、ある程度の年齢になるまで手術を待っていました」
60歳で定年退職すると、自宅で家事をしたり、覚えたてのパソコンでインターネットをして過ごす。しかしいよいよ膝が悪くなってきたため、2011年に77歳で左膝、2012年に右膝の手術を受けることになった。
ところが、父親は右膝の手術後、全身麻酔から覚めた瞬間からせん妄が激しく、勝手にベッドから降りてしまうなど危険な行動が続き、日中は誰かがつきっきりで見張っていなければならなくなる。
当時、ちょうど勤めていた飲食店が閉店することになり、無職になった下島さんは、1週間ほど父親に付き添っていたが、1日だけ母親に交代してもらうことに。当時68歳の母親は、55歳で病院の看護助手の仕事を退職した後、仲間と旅行やカラオケやパークゴルフをしたり、庭で野菜や花を育てて過ごしていた。
下島さんが自宅で休んでいたところ、突然看護師から「お母さんが倒れたので来てください!」という電話を受ける。
急いで駆けつけると、横たわった母親が処置を受けながら検査室に運ばれる所だった。医師からは、父親の付き添いの合間に、昼ごはんのために売店で購入した稲荷寿司を喉に詰まらせたと聞かされる。
幸い母親は一命をとりとめ、そのまま入院に。一方で父親の不穏な状態は続いており、精神科受診を勧められ、半ば強制的に退院することに。
「本来は2ヶ月ほど入院し、足のリハビリを受けてからの退院になるはずですが、厄介払いするかのような対応に怒りが湧きました。錯乱している父を連れて帰ることへの病院側のフォローもなく、途方に暮れました……」
父親は何とか歩けたため、下島さんと交際中の男性とで家に連れて帰ることができた。
しかし10日後、追い打ちをかけるように、「次の入院患者が待っているから」と、母親も退院することに。
錯乱状態が続く父親を一人家に置いては行けない。このときも交際中の男性に助けを求め、父親も連れて3人で母親を迎えに行った。
いきなり両親2人の介護が始まり、46歳の下島さんは大混乱に陥った。
●突然、両親の介護をしなければならなくなった下島さんは、次から次にトラブルに見舞われます。後編【両親の貯金1000万円では足りず持ち出しも…介護に追われる40代女性を待ち構える「老後破綻」の理不尽】にて、詳細をお届けします。
旦木 瑞穂/ジャーナリスト・グラフィックデザイナー
愛知県出身。アートディレクターなどを経て2015年に独立。グラフィックデザイン、イラスト制作のほか、終活・介護など、家庭問題に関する記事執筆を行う。主な執筆媒体は、プレジデントオンライン『誰も知らない、シングル介護・ダブルケアの世界』『家庭のタブー』、現代ビジネスオンライン『子どもは親の所有物じゃない』、東洋経済オンライン『子育てと介護 ダブルケアの現実』、毎日新聞出版『サンデー毎日「完璧な終活」』、日経ARIA「今から始める『親』のこと」など。著書に『毒母は連鎖する〜子どもを「所有物扱い」する母親たち〜』(光文社)がある。
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