失敗で怒ると「大人の顔色伺う」 監督ベンチ不在…行動力高める“教えすぎない”指導
Full-Count / 2024年4月16日 7時5分
■筒香嘉智がオーナーを務める「和歌山橋本Atta boys」…指導理想は「ガキ大将」
前サンフランシスコ・ジャイアンツ傘下マイナーの筒香嘉智内野手がオーナーを務める小学生硬式野球チームの「和歌山橋本Atta boys(アラボーイズ)」が、今月1日から2日間にわたり、元メジャーリーガーのカート・スズキ氏が監督を務める米国ロサンゼルス近郊のポニーリーグチーム「PONO(ポノ)」と和歌山県橋本市で交流した。両日行われた試合では、サインや選手交代を選手たち自身で決定し、監督はベンチの外から見守るというAtta boys独自のスタイルが際立った。
Atta boysの活動場所は、筒香が2億円の私費を投じて故郷に建てたスポーツ施設「TSUTSUGO SPORTS ACADEMY」。筒香の想いが反映されたチーム理念は、子どもたちが「自分で考えて決断する、行動する力」をつけること。代表を務める筒香の兄・裕史(ひろし)さんと、堺ビッグボーイズ小学部でも指導者を務めてきた松下謙太監督が中心となり、独自の指導法を行っている。今回は、エンゼルスで大谷翔平投手とバッテリーを組んでいたスズキ氏が率いるPONOが来日し、日米それぞれの練習メニューを体験するなど、内容の濃い充実の2日間を過ごした。
交流試合では2日間ともにAtta boysが勝利を収めた。監督の采配が冴え渡ったのかと思いきや、試合前に「1投手最大2イニングまで」「選手は全員出場すること」というお題を、選手たちに2つ出しただけ。試合中に監督はベンチ不在で、サインはなく、選手たち自身がラインナップや選手交代を決めるというスタイルが採用されていた。
主体性を持つこと願い、あえてキャプテンは決めず立候補制。この日も「僕がやる!」と、あちこちから勢いよく手が挙がった。試合が始まれば、キャプテンが監督さながらベンチ前に立って大きな声で指示を送り試合を進める。守備に就いた選手同士もよく声を掛け合っているのが印象的。プレーをしっかり観察し、試合の流れを考えなければ、こういった指示の声は出ないだろう。
観察し、考えることは、チームメートに対する理解を深めることにも繋がる。それぞれの得意不得意お互いにを理解していれば、守備の苦手な選手のところに打球が飛んだ時は「カバーリングに入ろう」と自然に体が動くようになるし、選手間の声かけも増えてくる。そんな場面が試合では目立った。
「和歌山橋本Atta boys」の松下謙太監督【写真:木村竜也】
■「選手と指導者の立場に上下はなくて、目線は同じ」
Atta boysでは、普段からバントの練習はほとんどしない。「サインは出さないです。ホームランを打とうと練習しているのだから、その成果を出してきてと伝えます」と松下監督。戦術としてバントの必要性は理解しているが、細かな技術は中学生から練習すれば十分間に合う。小学生にはまず、打つ喜びや楽しさを感じてほしいというのが、監督の願いだ。
もちろん、指導者が注意をしたり、指示を出したりすることもあるが、「○○しろ!」と決めつけるような言い方は絶対にしない。「注意したくても直接は指摘せずに、『俺ならこうするな』という言い方をします。選手と指導者の立場に上下はなくて、目線は同じ。理想はガキ大将というか、近所にいるおじさんが教えに来ているくらいの感じです(笑)」というのが信条。いまだに少年野球界に見られる指導者と選手の“主従関係”とは、正反対のスタンスだ。
「細かく教えてしまえばすぐに伝わるので、指導者はめちゃくちゃ楽なんです」。どこまで教えていいのか、伝え方は合っているのか、最適な指導方法は何かと考え続けることは決して楽なことではない。考えるのをやめてしまったり、一時的な怒りの感情に流されたりして、選手に考えさせずに答えを教えてしまう指導者も少なくない。でも、そこから生まれるものはない。
「指導者が成功や失敗で怒ると、選手たちは指示を待つようになったり、大人の顔色を伺うようになったりするんです。少年野球に失敗はつきもの。そもそも打撃は7、8割が失敗なわけですから、そこを怒るのはナンセンス。小学生であれば1、2割しかない成功の方を褒めてあげたいんです」
教えすぎない指導だからこそ、選手が自ら考えて挑戦するようになる。「自分で考えて決断する、行動する力」をつけること。チーム理念に忠実に基づいた指導を実施する少年野球チームがここにある。(木村竜也 / Tatsuya Kimura)
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