契約更改で勝負をかけた“直談判” 監督交代が転機…元ドラ1が挫折を経て得たもの
Full-Count / 2024年4月9日 7時20分
■ルーキーイヤーでは史上初の2試合連続サヨナラ打をマークした喜多隆志氏
天才打者の現役生活はわずか5年間だった。慶大時代に東京六大学シーズン最高打率.535をマークし、2001年ドラフトで1位指名を受けロッテに入団した喜多隆志氏。“ロッテを変える男”として期待されるも、目立った成績は残せなかった。それでも「全ての経験が、今の指導に繋がっている」と笑顔で振り返る。
喜多は鮮烈デビューを飾った。プロ初安打はルーキーイヤーの2002年5月1日ダイエー戦(当時・千葉マリン)。「1番・右翼」でスタメン出場し、9回に中前へサヨナラ適時打を放った。さらに2日後の西武戦でも延長10回に左越えサヨナラ打。パ・リーグでは史上8人目、新人では史上初の2試合連続サヨナラ打の快挙を達成した。
だが、自身の中には違和感だけが残っていた。「当初はいけるかなと思っていましたが、試合を重ねる度に球の強さ、キレに対応できない。2本目のサヨナラ打もレフトオーバーだったのですが、たまたまいいところに飛んだ。その後も、ボールに差し込まれることが多く結果を出せなかった。プロの世界の現実を目の当たりにした時間になった」。1年目は19試合の出場に留まり、レギュラーを掴むことはできなかった。
2年目は34試合と出場機会を増やしたが、3年目に山本功児監督からボビー・バレンタイン監督に代わり、出番を失う。若手の西岡剛らを積極的に起用する“スピード野球”に喜多の居場所はなかった。「急に足が速くなるわけでもないですし。自分には特筆すべきものがなかった。山本監督なら使ってもらえたと……。逃げの部分ありました」と、当時を振り返る。
主戦場を2軍に移した2005年オフ。契約更改交渉の席で勝負をかけた。球団フロントに他チームへ行きたいと伝えた。その意味は「双方ともロッテとして最終年になるだろう」という意味を理解しラストシーズンに挑んだ。
■戦力外で受け12球団トライアウト参加も…オファーなく引退を決断
「今思えば自分もそんなこと言えるんやと。周りから見たら実績もない選手の『どの口が言ってるんだ』ってなりますよね。でも、それなりの覚悟はありました。どんなことでもそうですが、最終決断は“わがまま”にならないといけないのかなと思います。自分が一番、後悔するので」
背水の陣で迎えたプロ5年目。自主トレでは大学の先輩でもある佐藤友亮(当時西武)に弟子入りし、打撃や体の使い方をゼロから作り直した。その甲斐もあり、2軍では主に代打ながら打率2割8分台をマークしたが、最後まで1軍に呼ばれることはなかった。
2006年10月。幕張プリンスホテルで戦力外通告を受けたが「覚悟していたので」と事実を淡々と受け入れた。12球団トライアウトを受けるも他球団から声はかからない。球団職員として残る選択肢もあったが、全てを断り指導者に向けた準備を進めていった。喜多は5年間のプロ生活を口にする。
「高校、大学ではレベルの高いところで勝負できていたので、こんなはずじゃないと思ったこともありますが、結論、野球選手としては成功者じゃない。だから、よかったのかなと。生徒に対する見方や接し方も含め今の指導に繋がっていると思います。成功していないのでわかりませんが、プロの世界で活躍していたら、今とは別の指導者になっていたかもしれません」
引退後は朝日大のコーチ、母校・智弁和歌山の部長を経て、2018年に大阪・興国高校の監督に就任。「現役時代にレギュラーとして試合に出る喜びと、控えメンバーとしての苦しみの両方を味わえたことは良かった」。今では100人を超える大所帯を率いる糧になっている。元ドラ1の監督は激戦区・大阪で子どもたちと、夢の甲子園を目指していく。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)
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