『ドクター・スリープ』は「キングの原作とキューブリックの映画という“相反する二者のシャイニング”を見事に融合した」
ガジェット通信 / 2019年11月29日 18時0分
最初に一番重要なことを書きます。現在大ヒット上映中のスティーヴン・キング原作の映画『ドクター・スリープ』は、『シャイニング』の続編です!
『シャイニング』と聞いてまっさきに”双子”を思い出す人は、スタンリー・キューブリック監督による映画のファンのはず。実は原作にはあの双子は出てこないことをご存じの方も多いのではないでしょうか。ちなみに原作の主人公は、斧ではなく大きな槌で襲ってきます。迷路すら出てきません。
ジャンルの範疇を超え、映画史に残る傑作として名高い『シャイニング』ですが、原作者キングはこの映像化に対して批判的でした。物語のテーマ自体が違うこと、そしてエンディングが”炎”から”氷”へと変えられてしまったことに納得できなかったのです。
シャーリィ・ジャクスン『丘の屋敷』が原作のNetflixシリーズドラマ『ザ・ホーンティング・オブ・ヒルハウス』の製作総指揮を担当したマイク・フラナガン監督は、『シャイニング』刊行から36年後の2013年に出た続編『ドクター・スリープ』を発売日に買いに行ったほどのキングの大ファン。と同時にキューブリックの映画版も敬愛している彼は、今回『ドクター・スリープ』を監督するにあたり「キングの小説を忠実なかたちで映画化すべきだ」と強い思いで脚本を書きました。それを読んだキングは、
“『ドクター・スリープ』の見事な映画版であり、そしてまた、キューブリックの映画『シャイニング』のすばらしい続編だ”
と最高級の賛辞で映画化を承諾。フラナガン監督がどれほど感動したか想像もつきません。そして「両者に敬意を払いつつ、単独の映画として成り立つ作品を作ること」が何よりも重要だと考えて作られた本作は、原作ファン、映画版ファン両方とも、大満足間違いなしの作品に仕上がりました!
物語は、あれから40年後。呪われたホテルから生還した少年ダニーもいまや中年。しかしあの地獄の体験はトラウマとなり、父親と同じアルコール中毒に長い間苦しめられています。しかしある日、彼の<かがやき>が強く反応する出来事が起きます。同じころ、アメリカの各地で少年少女が行方不明になる事件が多発していました。
特殊な能力を持つ主人公ダニーを演じるのは、キング作品初出演のユアン・マクレガー。偶然にも『T2 トレインスポッティング』のレントン、『プーと大人になった僕』のクリストファー・ロビンと、”あの登場人物が大人になったら”という役が続いていますが、これはユアンが「無事で生きていてよかった!」と多くの人が気にかけずにはいられないキャラクターが似合うからでしょうか。怪しい魔力で人々を惑わすローズ役にはレベッカ・ファーガソン、ダニーをしのぐ能力を持つ勇敢な少女アブラを新人カイリー・カランがパワフルに演じています。
最後に、原作『ドクター・スリープ』(文春文庫)の訳者であり、スティーヴン・キング作品の大半と息子のジョー・ヒルの作品も手掛けている翻訳家の白石朗さんから本作へのコメントをいただきました。
“キングの原作とキューブリックの映画――相反する二者の”シャイニング(かがやき)”に敬意を払いつつ、フラナガン監督は続篇となるこの映画で両者を見事に融合させ、新たな”かがやき”を創りあげました。本作鑑賞後にあらためて『シャイニング』の原作や映画に触れれば、新たな発見があるかもしれません。原作『ドクター・スリープ』で迫力満点だった超能力描写が映像化でスケールアップしているのも見どころです。”
『ドクター・スリープ』も原作と映画では異なる点がありますので、原作ならではの味わいと映像化によって広がった表現の数々を、ぜひこの機会に『シャイニング』と2作あわせて楽しまれてはいかがでしょうか。
【書いた人】♪akira
翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、「映画秘宝」等で執筆しています。
『ドクター・スリープ』
http://wwws.warnerbros.co.jp/doctor-sleep/
(C)2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
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