[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:夢のはじまり(都立東大和南・岸本真輝)
ゲキサカ / 2016年11月8日 13時35分
東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」
「お疲れさま」「さようなら」。別れの挨拶を交わし、その背中を見送った後も少しその場に残ってみる。もしかしたらあの日と同じように戻ってくるんじゃないかと思って。でも、アイツは結局戻ってこなかった。その時、わかった気がした。「ああ、ちゃんとやり切ったんだな」と。無名の都立校をキャプテンとして率いた18歳は、東京サッカー界の聖地とも言うべき“西が丘”でのプレーを最後に、その高校サッカー生活に幕を下ろし、新たな夢へのスタートを切った。
「都立校の中でもサッカーが強いから」という認識で、都立東大和南高校の門を叩いたという。実際に入学してみると自分が思っていた以上に選手も揃っていると感じ、「どんな状況であれ、全国を本気で目指せるチームにしたいな」と決意した。ただ、最初の2年間は理想と現実のギャップにもがき続ける。「挨拶とかもできないし、サッカー部の専用玄関の使い方もメッチャ汚くて、本当にチームとしての土台がまったくない」中でキャプテンを務めることになったが、練習中に“オニギリ”を食べている選手までいるような状況に頭を抱えた。「チームを変えたくて、でもどうしようもできなくて、という時に1回だけ泣いた」そうだ。自らの無力さを痛感した高校生の心中は察して余りある。
そんな状況に変化の兆しが見えてきたのは今年の4月。同校に赴任してきた大原康裕先生がサッカー部の監督に就任する。今まで抱えてきた想いをぶつけると、大原先生は「自分が持っていた違和感というのを素直に受け止めてくれて、変えようとしてくれた」という。「『こういう話をして下さい』と言うと、本当にパーフェクトな話をみんなの前でしてくれて、それがみんなスッと心に入ってきて、すぐに行動できるようになったんです。素直にみんなが受け止められる話し方をしてくれるので、本当に助けられました」と師への感謝は尽きない。そして、わずかにではあるが状況が好転し掛けてきたタイミングで迎えた総体予選で、とうとうチームはブレイクの時を迎える。
支部予選から5連勝で進出した二次トーナメント初戦。2年連続で選手権予選のファイナリストに輝いている堀越高を向こうに回し、東大和南は前半からポゼッションで圧倒。勢いそのままに先制点と追加点を奪い、完勝と言って良い内容で強豪を撃破してしまう。その試合後、キャプテンに話を聞くことになった。少し警戒している様子がこちらにも伝わってくる。印象的だったのは「この繋ぐスタイルに対する自信はある?」と聞いた時、「これって正直に言い過ぎて損するということはないですか?」と返されたことだ。「例えば『自分は下手だから仲間に支えられている』的なコメントをしたら、『あの4番、穴だ』と思われてガンガン来られたりしないですか?」と。「面白いことを言うヤツだなあ」と思ったが、「これ以上聞き過ぎるのも悪いかな」と思い、こちらも「君が穴だとは思わないけどねえ」と締めくくって、会話はそこで終わった。
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