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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:苦しさのなかに咲く花(関東一・小野貴裕監督)

ゲキサカ / 2016年11月22日 19時0分

 成立学園高との決勝もリードしたまま80分間が経過し、電光掲示板に表示されていた数字が消える。スコアは1-0だったが、不思議と勝利は確信していた。ふと今まで自らを鍛えてきてくれた各校の指導者の顔が浮かぶ。「本当に東京都の力のある先生たち、今50代くらいの皆さんと僕はちゃんと戦えたんです。大西先生(武蔵高)とも廣瀬先生(帝京)ともやれたし、李さん(國學院久我山高)に登先生(都立東久留米総合)、向笠先生とも岩本先生(共に修徳高)ともやれましたし、山下先生(都立駒場高)にも林先生(暁星高)にもやられまくりましたし、それこそ宮内さん(成立学園)もそうですし、そういう方々と全部やれたので、たぶんその経験値は自分の中であってもいいのかなと。『それぐらいはあってもいいだろう』と思ったんです」。この10年間ずっと追い求めてきた瞬間が目前に迫っても、頭の中は不思議とクリアだった。タイムアップの笛が鳴り、江口部長と抱き合い、スタッフ陣や子供たちとハイタッチで喜び合っても、やはり小野の頭の中は不思議とクリアだった。

 以前、小野がこう話していたことがある。「僕も本当は『もっとうまく行くかな』って正直思っていました。『あっという間に結果が出ちゃうかな』って。でも、意外とうまく行かなくて『この高校生という年代を指導するってそんな簡単に行かないんだな』と。どうやったら子供たちの中で切磋琢磨できるかが一番大事で、そう考えたら時間は足りないですし、もっとやらなきゃいけないことがあると思うんです」。あるいはもっと早く全国を知っていたら、見えてきたものがあったかもしれない。もっと早く結果を得られていたら、手に入ったものがあったかもしれない。それでも、この10年という月日で得てきた多くの悔しさとわずかな喜びが、小野の指導者人生を支えてきたこともまた紛れもない真実だ。念願叶った決勝後。「『凄く良いサッカーをしたい』と思ってずっとやってきた時間があって、『絶対勝ちたい』と思ったここ何年があって、結局良いサッカーにこだわっても、勝ちにこだわっても、“こだわる”って凄く苦しいことだなって。苦しかったですね…」と、少し目を赤くした小野は呟くように言った。おそらく指導の現場に立ち続ける限り、その苦しさが消えることは今後もないだろう。1つだけ確実なことは、その苦しさのなかに咲く一輪の花のような、わずかなわずかな喜びを求めて、“こだわり続ける”彼のサッカーと生きる道はこれからもずっと続いていく。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

▼関連リンク
SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
【特設】高校選手権2016

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