『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:決断(青森山田高・天笠泰輝)
ゲキサカ / 2018年12月3日 21時20分
執念は試合終了間際に実る。後半41分。バスケス・バイロンが利き足とは逆の右足で上げたクロス。キーパーが掴み損ねたボールはゴールネットへ吸い込まれる。その瞬間。ピッチ際をぐるりと囲んでいたチームメイトが一斉にグラウンドへ雪崩打ち、歓喜の渦ができる。だが、ファイナルスコアは1-1。劇的に追い付いたものの、青森山田から見ればリーグ優勝が遠のく痛恨のドロー。天笠が期した“3度目の正直”も果たすまでには至らなかった。
試合後。3年前の夏を共にした“旧友”たちの輪ができる。とりわけ天笠が話し込んでいたのが、“旧友”たちの中でただ1人だけ、来年からアントラーズのトップチームでプロの道を歩み出す佐々木だった。「自分がユースの練習に参加した時は同じポジションだったので、アントラーズに入ったら絶対に負けたくないと思っていたんです。僕はまだ今はプロになれなくて、翔悟はプロに行くんですけど、絶対に4年後にはアイツに追い付くだけじゃなくて、追い越すような選手になりたいと思います」。ロッカー代わりに使っていた教室の窓から、偶然目の前を走って行った天笠と楽しげにアイコンタクトを交わしていた佐々木に声を掛けると、「アイツ、中学の時から知ってるんです」と何とも嬉しそうな言葉が返ってくる。それだけで彼らの関係性が余すところなく伝わってきた気がした。
あの日の決断は正しかったと信じている。だから何より結果で示したかった。それでも、決着の付かなかった180分を経て、積み上げた日々に対する手応えは、自身の内側へ確かに残っている。「自分がこっちに来て成長したことを現わせるのはピッチだけだと思うので、あまり結果とは繋がらなかったですけど、『自分もここまで成長したんだぞ』みたいに少しは現わせたかなと思いますね」。青森での3年間を支えてきた天笠とアントラーズとの“因縁”には、ひとまずここで一旦の終止符が打たれることとなった。
プレミアEASTの優勝には手が届かなかったが、彼らには高校生活最後のビッグイベントが控えている。天笠も「自分たちには選手権という大会があって、全国優勝すれば名前も上がりますし、そこで活躍すれば『アイツも頑張ってるから、俺も頑張らなきゃいけない』ってみんなの刺激になると思うので、本当に選手権で活躍できればいいなと思います」と自らの声に力を籠める。ここからの1か月は時間との戦いに加え、“雪”との戦いも待ち受けている。冬の全国が周囲への感謝を形にするための大事な舞台だと、天笠が十分過ぎるほどに理解していることは言うまでもない。
中学と高校の“3年生”は否応なく決断を迫られる時期でもある。それが正解かどうかなんて、すぐにわかるはずもないし、あるいはそもそも正解自体があるのどうかもハッキリはしていないように思う。だからこそ、自分で下した“決断”には意味がある。自分で歩いてきた“道”には意味がある。いつかあの“決断”が、いつかこの“道”が正しかったと思えるような日が天笠に訪れるとしたら、それが彼と彼を温かく見守ってきた周囲の正解になるのだろう。
■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」
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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
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