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実際のところ〈甘さ〉も〈辛さ〉もないが…日本酒の味はなぜ「甘口」「辛口」で表現されるのか【専門家が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月12日 13時0分

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(※写真はイメージです/PIXTA)

日本酒を選ぶときの基準「甘口」「辛口」。当たり前のように定着している表現ですが、実際のところ、一般的な「甘さ」「辛さ」と、日本酒のテイストは少し違っているようです。葉石かおり氏・監修、近藤淳子氏・著『人生を豊かにしたい人のための日本酒』(マイナビ出版)より、日本酒の味の表現について、詳しく見ていきましょう。

日本酒の「甘口」「辛口」って?

ショートケーキのような砂糖の甘さ、スパイスカレーのような香辛料の辛さなど一般的な甘辛のイメージと、日本酒の甘辛はやや違っています。

日本酒の甘口は、華やかな香りやお米のふくよかな旨味を英語でシンプルに表現すれば「SWEET」。辛口は、スッキリとのど越しが良く、軽やかな「DRY」といえます。

「飛露喜」で確固たる地位を築いている廣木酒造本店(福島県)の蔵元杜氏、廣木健司さんに、甘辛について解説していただきました。

「例えば、舌触り(テクスチャー)だけでいうと、日本酒度※1はマイナスに向かい、甘口になるほどトロリとした舌触りになり、プラスの数値が高くなり、辛口になるほどサラリとなるイメージをもっています。ただ、甘辛の定義は日本酒業界内でもいろいろな意見があり、いまだに話が尽きないテーマです。実際に人が舌で感じる甘辛は、温度や酸度※2などにも影響を受けるので、日本酒度はあくまで一つの目安です」 ※1 日本酒に含まれる糖分の比重を数値化。プラス(+)の数値が高いほど辛口、マイナス(-)の数字が大きいほど甘口の傾向にある。ただし、あくまでも目安 ※2 日本酒に含まれる酸(コハク酸、リンゴ酸など)の量を示す。日本酒度が高くて酸度が低ければ淡麗辛口、日本酒度が高くて酸度が高ければ濃厚辛口という目安が立てられる。平均値は毎年変わる

なぜ、一つの目安でしかない日本酒度が採用されているのかについて廣木さんは、「日本酒度は、日本酒に比重計を入れるだけで測定できます。計測技術の乏しかった昔は、最も簡単で効率的に発酵具合を知る測定方法だったはず。それが全国に広がり、いまだに重宝されているのではないでしょうか」と推測。

日本酒度が使用され続ける意義について、改めて考えさせられます。

ちなみに「甘辛は、酒屋にとって永遠のテーマ。『辛口をください』とオーダーされるお客様が圧倒的に多いです」とおっしゃるのは、望月商店(神奈川県)の望月太郎社長です。

日本酒を販売する際には、まず、お客様の好みを聞き、甘辛のイメージを掘り下げるという望月社長。次に日本酒の場合はキリッとしたのが辛口、米の旨味があるのが甘口などの説明を加えていくのだとか。さらに自分用、プレゼント用、年代、普段飲んでいる酒類、どんなシチュエーションで飲むのかなども伺うそうです。

最後に望月社長は「嗜好品ゆえに答えは一つではないのですが、甘辛から日本酒の好みを見つけていただくのも面白いと思います」と締めくくってくださいました。

日本酒度だけでは測れない、甘辛の奥深さを知るきっかけになりましたら幸いです。

日本酒を表す単位はなぜ「合」なのか

居酒屋で、店員さんに「日本酒1合ください」の一言がなかなか言えなかった20歳の頃。「合」という単位を使い慣れていないことと、当時は若い女性が日本酒を飲むと珍しがられたので、なんとなく恥ずかしいという思いがありました。

日常生活では水やガソリンなどの液体はリットル表記ですが、日本酒を表す単位はなぜ「合」なのでしょうか。

これは、長さを表す「尺」と、質量を表す「貫」による「尺貫法」に由来しています。尺貫法の起源は古く、中国・漢の時代に体系化された単位だといわれています。尺貫法は1954(昭和34)年に廃止され、1966(昭和41)年に国際的な計量基準に統一されると、徐々に使われなくなりました。

ただ、日本酒はこれまで歩んできた伝統を継承していくためにも、昔ながらの単位を使用し続けているという背景があるようです。

例えば、「1勺」は約18ミリリットル。2勺(約36ミリリットル)でお猪口1杯分くらいの量です。

「1合」は、約180ミリリットル。一合徳利、二合徳利など酒器にも使われています。結婚式の鏡開きで使われる木製の一合升もあります。また、ご飯を炊くときにも使っている単位、1カップも1合です。

「1升(しょう)」は約1.8リットル(1800ミリリットル)で、一升瓶のサイズです。最近では、一升瓶よりも冷蔵庫で保管しやすく、飲み切りやすいので、四合瓶(720ミリリットル)で販売されることが多くなってきました。四合瓶は「しごうびん」または「よんごうびん」と呼ばれますが、「しごうびん」は冠婚葬祭の際の忌み言葉と捉えられることもあるので、「よんごうびん」と呼ぶと良いでしょう。

「1斗(と)」は、約18リットル、一升瓶10本分。なかなか耳なじみがない単位かもしれませんが、日本酒を飲食店に卸す際に使われています。

「1石」は、約180リットル、一升瓶で100本。酒造の生産量を表すときに使われる単位です。酒造会社の生産量が800石の場合は、年間に一升瓶8万本の生産量があるといえます。また、石を「こく」と読むのは、中国の体積の単位だった「斛」の発音に由来するようです。

江戸時代の1石は、1年間に消費する1人当たりの米の総量とされることもありました。江戸人の1食は、米1合。つまり、1日で3合、1年で1,000合=1石も食べるとされていたのです。少々の香の物と大量の米を食べる食生活から、江戸患いと呼ばれた「脚気」が流行しました。これは、江戸時代に白米を食べることが流行ったことが原因です。玄米にはビタミンB1が含まれているので脚気にはなりませんが、精白米は糠を取り除くことでビタミンB1が欠乏するからです。

日本史では「加賀百万石の殿様」など、江戸時代の大名を呼ぶときにも「石」が登場します。日本酒の生産量を表す「石」は、米が経済の中心的存在だった時代から、その国の大きさや経済力を象徴する単位でもありました。

近藤 淳子 一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション 副理事長、フリーアナウンサー

葉石 かおり 一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション 理事長 酒ジャーナリスト、エッセイスト

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