江戸時代創業の超老舗から日本屈指の秘湯まで…希少価値の高い“オール木造”の温泉旅館10選【温泉学者が絶賛】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月11日 11時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
やさしい香りと温かみのある雰囲気で、私たちの心身を深く癒してくれる木のお風呂。浴舎も浴槽も丸ごと木造の温泉旅館は、「維持や管理に手間がかかること、及び耐久年数の問題で今や貴重な存在」と、温泉学者であり医学博士でもある松田忠徳氏は言います。松田氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』より、日本が誇る木造風呂のうち、松田氏が絶賛する10の温泉旅館を紹介します。
「希少価値」と「癒やし効果」の高さが魅力の“木造風呂”
全国一万数千軒の温泉旅館のうち、浴舎(風呂場)も浴槽(湯船)も丸ごと木造の温泉旅館は意外と少ないものです。高度経済成長期(1955―1973年頃)からバブル経済期(1986―1991年頃)にかけて、有名温泉地で競って鉄筋の高層建築に衣替えしたことと、木造建築は維持、管理に手間がかかること、及び耐久年数の問題などが木造の浴舎・浴槽の激減した理由だと思われます。
それだけに私たちの心身を真に癒やしてくれるこうした浴場を残す旅館は、希少価値があるだけではなく、頼もしい存在でもあります。
木は材料になってからも生きています。だからこそ日本人の生体リズムと波長が合うのです。木造の浴舎、湯船は年季を重ねてもその歳にふさわしい輝きを保ち続けます。古くなればなるほど温かみを増す――。人間と同じですね。
木造の風呂場が魅力的な温泉旅館10選
浴舎、浴槽ともに木造の主な温泉旅館をご紹介します。
■雌阿寒温泉「山の宿 野中温泉」(北海道足寄町)
阿寒湖の南西、日本百名山の雌阿寒岳の麓にコバルトブルーの水をたたえる“北海道三大秘湖”のひとつ、オンネトー。その近くにエゾマツの美しい純林帯に硫化水素臭の湯煙を上げる通称「野中温泉」こと雌阿寒温泉。浴舎も湯船もクギ一本使わない総トドマツ造り。木のぬくもりと源泉100%かけ流しのまろやかさがぴったりと融合した秘湯の宿で、登山客の利用も多い。
ここの温泉は科学的にわが国でも屈指のレベルであると、高く評価しています。
■酸ヶ湯温泉「酸ヶ湯温泉旅館」(青森県青森市)
八甲田山系の最高峰、大岳の西麓に硫黄臭を漂わせる酸ヶ湯温泉は、昭和29(1954)年に「国民保養温泉地」の第一号指定を受けた、わが国を代表する療養温泉の名門です。
名物「ヒバ千人風呂」は広さが約160畳もある、地場産の総ヒバ造りの混浴大浴場(女性専用の時間帯有り)。浴槽の底から自然湧出する源泉100%かけ流しの「熱の湯」をはじめ、「冷の湯」、「四分六分の湯」、「湯瀧」の4つの源泉があり、白濁した湯が常にあふれています。男女別の浴場も別にあります。日本に「酸ヶ湯温泉旅館」があることを誇りに思います。
■蔦温泉「蔦温泉旅館」(青森県十和田市)
東北を代表する湖、十和田湖畔から奥入瀬渓流を抜けると、十和田樹海と呼ばれるブナの原生林のなかに湯煙が上がります。破風の正面入り口が凜とした威風を漂わせる木造二階建ての本館は、大正7(1918)年に建てられたもの。
浴場は「久安の湯」と奥の「泉響の湯」の2ヵ所。圧巻はヒバ造りで、高さ12メートルもの吹き抜け天井をもつ「泉響の湯」で、湯船の底のブナ板の間から直湧きの澄明な湯が“湯玉”となってふつふつと湧き上がってきます。誕生したての湯に浸かることの悦楽! ここは私のもっとも好きな風呂のうちのひとつです。
貴重な浴舎と質の高い温泉は「感動もの」
■高湯温泉「旅館 玉子湯」(福島県福島市)
見事な庭園の一角に湯煙を上げる萱ぶきの湯小屋「玉子湯」は、明治元(1868)年の創業以来の姿をとどめています。
源泉100%かけ流し、乳白色の硫黄泉に入ると肌が玉子のように滑らかになることから、玉子湯と名づけられたといいます。萱ぶき屋根の昔ながらの木造の浴舎は非常に珍しく、質の高い温泉とともに貴重な存在です。
■法師温泉「法師温泉長寿館」(群馬県みなかみ町)
上越国境、三国峠麓の一軒宿の温泉で、早くから多くの文人墨客を魅了してきた名湯です。「長寿館」の一番の魅力は、明治28(1895)年に造られた鹿鳴館風の大浴場。杉の梁にブナやモミジなどの板が使われた純和風の湯殿ですが、木枠の窓が洋風のウインドフレームなのです。このエキゾチックな雰囲気こそが、古湯、法師温泉の意外性なのでしょうか。
田の字型の大浴槽の底に敷き詰められた玉石の間から、熟成された自然湧出のまろやかな石膏泉がぷくぷくと湧き上がってきます。泉源の上に浴槽を設えたのです。これほど適温の直湧きは希有な存在といえます。私が好きなナンバー・ワンの風呂がここ法師なのです。
■沢渡温泉「まるほん旅館」(群馬県中之条町)
草津の湯は名だたる酸性泉でしたから、近くの沢渡温泉は湯治療養で荒れた肌を柔らげ“仕上げの湯(直し湯)”として、昔からその存在はつとに知られていました。
江戸初期の元禄年間創業という「まるほん旅館」の風呂場は、沢渡の柔らかな湯を十二分に引きだそうとしてか、浴舎は惚れ惚れとするような総檜造りです。風呂場へ続く廊下や階段も木材。そうした木の宿の雰囲気は確かに“玉肌づくり”の湯の効果を一段と高めてくれそうで、憎い演出に思えます。
■たんげ温泉「美郷館」(群馬県中之条町)
平成以降に建てられた温泉旅館で、「美郷館」のように総木造の旅館というのは極めて珍しい。しかもインパクトの強い見事な造りなのです。沢渡温泉から4キロメートルほど奥の丹下川の渓畔に平成3(1991)年に開湯した一軒宿「美郷館」は、木造の白壁の外観が周囲の緑によく映えます。
ロビーには圧倒されます。樹齢300~500年という総欅造りで、磨き込まれた床などは最近ではそうはお目にかかれない感動ものです。18室の部屋もすべて木造で銘木が使用されています。
浴場「瀬音の湯」がいい。木の香りが漂うなか、窓を開けると、外の渓流のせせらぎが耳もとに届いてきます。「滝見の湯」や「月見の湯」などの露天風呂もあります。この宿は樹木が育つ環境を慈しむ経営者の心が伝わってくるような、現代では希有な宿です。このようなコンセプトの宿と出合うと、「日本もまだ捨てたものではないな」と勇気をもらいます。
江戸・大正期に創業した風格漂う“老舗温泉旅館”
■塔之沢温泉「福住楼」(神奈川県箱根町)
多棟式木造三階建ての全館が国の登録有形文化財の「福住楼」は、早川渓谷の涼しげな瀬音が心地良い、福沢諭吉ゆかりの名宿です。
大正時代に造られた名物「大丸風呂」。檜と杉の湯殿(浴場)に赤松の大木から造ったという湯船がひとつ。小粋にも銅板で縁取られた丸い湯船から、澄明な湯が音もなくかけ流されています。
しかも丸い風呂の湯に早川渓谷の四季折々の色彩が映える、何とも贅沢な、入るのがもったいなく、つい見とれてしまいそうな風情のある湯殿には心底脱帽です。箱根温泉郷でも一番好きな風呂です。
■伊豆下田河内温泉「金谷旅館」(静岡県下田市)
昭和4(1929)年に建てられた木造2階建ての本館が落ち着いた雰囲気を醸し出す「金谷旅館」の創業は、慶応3(1867)年。
大正4(1915)年の完成という「千人風呂」は、じつに惚れ惚れとする日本最大級の総檜風呂です。幅約5メートル、長さ約15メートル、深いところで1メートルはあります。
女性大浴場「万葉の湯」、打たせ湯と泡風呂を備えた男女別露天風呂など、すべての浴槽から自家源泉かけ流しの湯がふんだんにあふれ、気持ちのよいこと! 明治末に造られたという味のある「一銭湯」(現在は貸切風呂)は、私の大のお気に入りです。
■湯の峰温泉「旅館あづまや」(和歌山県田辺市)
平安時代から熊野詣での際に心身を清める「湯垢離(ゆごり)」の場として知られた紀伊山地の古湯、湯の峰温泉。木造四階建ての「旅館あづまや」の湯船は、江戸後期創業の老舗旅館にふさわしい風格が漂います。湯殿(風呂場)は総槇造り、洗い場の床板は檜材で、憎いことに滑り止めの刻みが入れられています。
松田 忠徳 温泉学者、医学博士
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