「お風呂が沸きました」音源制作の裏に“温かな”秘話 …あのメロディの正体は?【家電とクラシック】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年3月5日 11時30分
(※写真はイメージです/PIXTA)
日常生活でよく聞くメロディにもクラシック音楽が隠れています。多くの人が聞いたことがあるであろう、お風呂のお湯張り完了をお知らせしてくれるあのメロディの正体は? 著書『生活はクラシック音楽でできている 家電や映画、結婚式まで日常になじんだ名曲』(笠間書院)から、音楽プロデューサーの渋谷ゆう子氏が、名曲に隠された作曲家の人生や時代背景を交えながら解説します。
「お風呂が沸きました」のあのメロディ
お風呂のお湯張り完了をお知らせしてくれるあのメロディ。ノーリツ製の給湯器から奏でられるセオドア・オースティン(エステン)(1813~70)作曲『人形の夢と目覚め』の一節に続く「お風呂が沸きました」という声を聞いたことのある方は多いでしょう。セリフもセットにしたこの楽曲の一連の流れは、今や日本の夜のリラックススタートミュージックとして定着しているといってもいいほどです。楽曲のタイトルは聞いたことがなくても、音楽を再生すれば必ず聴き覚えがあることに気づくことでしょう。 作曲家オースティンは、これまでご紹介したようなベートーヴェンなどに比べたらそれほど知名度の高い作曲家ではありません。交響曲などの大きなオーケストラ編成楽曲を作ったわけでもありません。ただ、歌曲やピアノの小品(小さな楽曲)で優れた作品を残しました。 同時にオースティンはよき教育者でもありました。小さな子どもから大人まで、音楽に親しみ、音楽を理解できるために彼は尽力しました。そんな彼の作った楽曲のひとつ、この「人形の夢と目覚め」もピアノを習う初期の段階で取り組むことの多い楽曲です。日本でもそれは同じで、筆者自身、ごく幼い頃にこの曲を弾いた記憶があります。 この製品の開発にもそんな日本の音楽教育の背景が大きく影響していました。ノーリツ社の広報に取材したところによると、1995年の製品開発当時、担当した社員の発案で、この曲に決まったといいます。この開発者は幼少期にヴァイオリンを習っており、その隣のピアノ教室に通う子どもたちが弾くこの曲が耳に残っていたというのです。それくらい、この楽曲は音楽教育の分野に広まっているということになります。遠く離れたドイツ・ベルリンのピアノを習う子どもたちのために作られた楽曲が、時を経て、海も渡って日本のお風呂タイムを演出していることを思うと、改めて音楽の持つ力や不思議な魅力に気がつきます。
音源は機械音ではなく人の演奏
さて、このお湯張り完了『人形の夢と目覚め』メロディの音源制作について、製品を作っているノーリツ社から、面白い話を伺いました。 当初は他の家電製品の大部分がそうであるように、楽譜をパソコンに読み込ませて、電子音でメロディを作っていたとのことですが、改良の際には人の演奏をベースにした音源に変更されたそうです。いったんシンセサイザーの生演奏をコンピューターに保存し、その演奏音を鉄琴の音に変換したものが現在製品から聴こえている音楽です。これについて、開発者は「人が弾くものをそのままデータにしたほうが耳馴染みがよかった」からだと説明しています。 この意見は音楽を生業(なりわい)にする人、プロ奏者たちの大きな勇気になるのではないでしょうか。今では楽器に楽譜データを入れておけば自動で演奏できる装置はたくさん存在します。またAIによって、作曲もできるようにさえなっています。ただ、こうした機械による演奏では音楽的ではないように聴こえる、人の心には響いていない、ということです。 例えば、楽譜を入力しての自動演奏では、まさに楽譜のとおり、正確に平均的に4分音符は4分音符の長さで再生され、1小節の中の同じ音符の長さは正確に均一化します。しかしながら、人間が演奏する場合、例えばそれぞれの指の長さや弾きやすさ(ピアノであれば、人差し指と薬指では弾きやすさが変わってくることは想像できるでしょう)の違いや、その音楽、メロディが意味するところ、次の音に行くための空間や余裕などでも、少しずつ違っているはずなのです。 もちろん卓越した演奏技術を持つ奏者であれば、機械のように完璧に近い演奏もできるでしょう。しかしながら、音楽には技術的なものだけでない、人間らしさや不完全さがある種の味わいとなり、人の心に届いているという事実がそこにあるのです。1日の最後にお風呂に入ってほっと一息つく。このリラックスタイムの始まりを告げる音楽には、そうした人間による人間のための心遣いがつまっていたのでした。
渋谷 ゆう子 音楽プロデューサー
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