〈世界一予約が取れないレストラン〉のシェフが大絶賛→メニューに加えた「スパークリング日本酒」の傑作とは
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月6日 13時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
さまざまな味わいを持つ「スパークリング日本酒」。世界的に地位を確立し始めているその背景には、開発者の努力がありました。葉石かおり氏・監修、近藤淳子氏・著『人生を豊かにしたい人のための日本酒』(マイナビ出版)より、スパークリング日本酒の開発秘話についてみていきましょう。
国内外で人気を集める「スパークリング日本酒」
シュワシュワした泡の爽快感が楽しめる「スパークリング日本酒」が人気です。「天山」(佐賀県)、「人気一」(福島県)など、様々な蔵元も続々とスパークリング日本酒を発売して人気を博しています。
スパークリング日本酒は、製法により3種類に分けられます。
①「瓶内二次発酵」
瓶内で酵母のアルコール発酵により自然の炭酸ガスが発生。
②「活性にごりタイプ」
発酵中のもろみを粗くこして、そのまま瓶詰め。発酵中の炭酸ガスのため、開栓のときは噴き出さないよう注意が必要です。
③「炭酸ガス注入」
できあがった日本酒に、専用の装置を使って人工的に炭酸ガスを注入。酒税法上は特定名称酒を名乗れず、普通酒などの表記になります。
スパークリング日本酒は、米の旨味と泡の刺激による重層的な味わいが魅力ですが、味わいのタイプも「フルーティ」「軽快」「旨口」「熟成」と多彩です。種類豊富なスパークリング日本酒は、今やイベントの乾杯酒や一部のフレンチ、イタリアンの食前酒や食中酒としても、一歩一歩、地位を確立し始めています。
“世界に通用する日本酒を”…群馬の酒造がたった1人で研究を始めた
まだスパークリング日本酒を造る蔵が数社しかなかった頃、「世界に通用する日本酒を造りたい」と早い段階で研究を始めたのが、永井酒造(群馬県)です。
最初に蔵元の永井則吉さんが挑戦したのは、にごり酒の中でも「活性にごり酒」※1。3年かけてガス圧、酵母、糖度などのバランスを試行錯誤し、700通りの製法の組み合わせから黄金比を発見して、商品化に至りました。 ※1 蔵によって様々で明確な規定はありませんが、酵母による発酵が「うすにごり」よりも活発なため、炭酸ガスのシュワシュワとしたのど越しを一層楽しめる傾向があります。
ただ、シャンパンのような世界標準の存在となるためには、お酒が白く濁っていては泡が見えないため、透明である必要があります。そこで2003(平成15)年から「瓶内二次発酵」「純米酒」「シャンパンと同等のガス圧」にもこだわり、今や永井酒造のフラッグシップとなる「水芭蕉PURE」の開発をスタート。
前例のないたった1人での挑戦は、3年間で500回もの失敗を繰り返し、暗闇をさまようかのような日々でした。
研究を重ねた末、完成した珠玉のスパークリング日本酒
もがき苦しみつつも藁をもつかむ思いで、本場シャンパーニュ地方へ単独渡仏。事前に学びたい要点を整理して挑み、製造のノウハウやヒント、さらにはシャンパンにかける関係者たちの想像以上の情熱に至るまで、有意義な発見がたくさんあったようです。
帰国後、2年間で200回の失敗を繰り返しましたが、フランスで得た製法の原理原則のおかげで、以前とは違った発展的な失敗だったとのこと。そして、2008(平成20)年、ついに「水芭蕉PURE」が完成します。
「水芭蕉PURE」は、予想以上の華々しいデビューを飾ることになりました。まず、国内では「東京国際映画祭2008」の乾杯酒に採用。それから数か月後には世界一予約が取れないスペインのレストラン「エル・ブリ」のメニューにオンリストされたのです。
「まさか、憧れの世界的なオーナーシェフからオファーがあるとは、心底驚きました」と永井さん。
“シャンパンでもビールでもない、初めてのテクスチャー”と大絶賛
なぜ採用されたのか知りたくて、シェフに会いに行ったところ、「食材を探し求めて世界中を旅しているうちに、日本で見つけたのが水芭蕉PURE。シャンパンでもビールでもない、すべてのスパークリングにない初めてのテクスチャー(舌触り)です」と大絶賛してくださったそうです。
2020(令和2)年にはフランスで開催される日本酒のコンペティション「Kura Master(クラマスター)」スパークリング部門の最高位で入賞という快挙を達成。
その後、審査員をつとめる約10名のトップソムリエたちが来日し、蔵訪問した際に、こんな素敵な言葉を残してくださいました。「フランスのワイン文化には当然誇りをもっているが、日本酒はそれに匹敵するくらい素晴らしい技術、文化、味わいがあります。フランスを訪れる世界の料理を知っているVIPにワインだけではなく、日本酒も提供したい。日本酒の価値を一緒に上げていきましょう」
この言葉は、日本酒の未来に対する大いなる可能性を秘めています。
厳選された日本酒スパークリングを「AWA SAKE」と認定
さかのぼること2016(平成28)年、永井さんは、価値ある日本酒スパークリングを普及させるという強い使命感のもと、蔵元9社で一般社団法人「awa酒協会」を設立し、初代理事長に就任。
日本酒スパークリングの新たな価値観を共有する組織として、品質維持のための厳しい基準と第三者機関での検査をクリアした銘柄を「AWA SAKE」と認定しました。普及促進や市場の拡大につとめて様々な活動を行い、2022(令和4)年現在は、全国28蔵元が加盟しています。
天皇誕生日レセプションや各国大使館の国際会議などでも採用されるようになった「AWA SAKE」、永井さんのグローバルな冒険はこれからも続きます。
一方、awa酒協会に所属する「七賢」の山梨醸造(山梨県)は、2022(令和4)年の春、日本酒の「国際化と高付加価値化」を掲げ、2万2,000円(720ミリリットル)という超高価格で、大吟醸古酒(2006年)と新酒の純米酒をブレンドした瓶内二次発酵の「七賢 EXPRESSION 2006」を発表しました。
まず、山梨県立美術館が所有する19世紀フランスの画家ジャン・フランソワ・ミレーの「種をまく人」を用いたラベルを著名デザイナーに依頼。さらに、新作をイメージする音楽や映像を制作することでこれまでにない「高付加価値」を与えたのです。
この新作発表会で北原亮庫醸造責任者は「『種をまく人』のエネルギッシュさに強くインプレッションを受けました。その印象とリンクさせるような躍動感のある酒質を具現化しています」と、自信作であることを語ってくださいました。
試飲させていただいた「七賢 EXPRESSION 2006」は、ブルーベリーや青リンゴのような爽やかさと、カラメルのような香ばしさもある不思議な香り。フレッシュな透明感とまろやかな旨味もありました。さらに野生的で微細な泡が、みずみずしく弾ける音や食感。これまでにないハッとするような色気さえ、感じられたのです。
価格帯や従来の風味のイメージを凌駕していく超高価格のスパークリング日本酒からも、目が離せません。
近藤 淳子 一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション 副理事長、フリーアナウンサー
葉石 かおり 一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーション 理事長 酒ジャーナリスト、エッセイスト
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