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父の遺産を妹と500万円ずつ分けて一件落着のはずが驚愕!〈遺産分割後〉に発見された遺言と異なる遺産分割をしていた場合、相続は「無効」になる?【弁護士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年4月9日 11時15分

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父が亡くなり、母、相談者、妹の3名が相続人となって遺産を分割。母は約1,000万円の価値がある不動産を取得して登記を済ませ、相談者と妹はそれぞれ500万円ずつ預金の払戻しを受けました。ところが最近になって、母から、父が相談者に対して「大半の遺産を相続させる」とした遺言が見つかったと告げられました。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、「遺産分割後に遺言が発見された場合の優劣」について解説します。

遺産分割後に遺言が発見された場合の優劣

先日父が亡くなり、母、私、妹の三名が相続人となりました。遺産については、約1,000万円の価値がある不動産と1,000万円の預金があったのですが、遺産分割により、母が不動産を取得して登記を完了させ、私と妹が500万円ずつ預金の払戻しを受けました。ところが、最近になって、母から、父が私に対して大半の遺産を相続させるとした遺言が見つかったと告げられました。

紛争の予防・回避と解決の道筋

◆遺産分割後に遺言の存在が判明した場合、当該遺言の内容が特定遺贈または特定財産承継遺言の場合には、当該遺産分割は、当該遺言と抵触する範囲で無効となり、当該遺言の内容が割合的包括遺贈または相続分の指定の場合には、当該遺産分割は錯誤取消しの可能性がある

◆遺産分割が無効または取消しとなり、相続人間で改めて遺言に従った相続財産の承継を行う場合には、税務上贈与とみなされないよう注意が必要となる

◆遺言が存在する場合でも、一定の条件の下で、遺言と異なる内容で遺産分割を成立させることもできる

◆公正証書遺言および遺言書保管所に保管された自筆証書遺言は、相続発生後に検索することができる

チェックポイント

1. 発見された遺言の内容・性質を確認し、遺産分割の無効・取消しの可否を検討する

2. 遺産分割が無効または取消しとなる場合、遺産分割に基づいて移転した相続財産の承継方法を検討する

3. 遺言と異なる遺産分割を成立させることができるかについて検討する

4. 公証役場や法務局に対して、公正証書遺言や(保管制度を利用している場合の)自筆証書遺言の有無を照会する

解説

1. 発見された遺言の内容・性質を確認し、遺産分割の無効・取消しの可否を検討する

遺言の存在を知らずに遺産分割を行った場合、当該遺産分割の効力は、当該遺言の性質によって異なります。

遺言の内容が相続人に対する特定遺贈または特定財産承継遺言(特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(民1014②))の場合、特段の事情がない限り、何らの行為も必要とせずに、被相続人の死亡時(遺言の効力発生時)に直ちに当該遺産が当該受遺者・相続人に承継されることになります。

そのため、後に成立した遺産分割は、当該遺言の内容と抵触する範囲で無効になると考えられます(東京地判平26・8・25(平23(ワ)15618))。

他方、遺言の内容が相続人に対する割合的包括遺贈や相続分の指定の場合、当該遺言の存在を前提にしたとしても、相続人間で遺産分割が必要となるため、遺言内容と異なる遺産分割は当然に無効とはならないと考えられます。

ただし、仮に相続人が当初から当該遺言の内容を知っていれば、当該遺産分割の内容に同意することはなかったであろうと評価できる場合には、当該遺産分割は錯誤により取り消される可能性があります(民95、最判平5・12・16判時1489・114)。

本事例の遺言の詳細は明らかではありませんが、当該遺言の内容が特定遺贈または特定財産承継遺言の場合、当該遺産分割は当該遺言と抵触する範囲で無効となり、当該遺言の内容が割合的包括遺贈または相続分の指定の場合、当該遺産分割は一応有効ではあるものの、錯誤取消しの可能性があるということになります。

遺産分割が無効または取り消された場合に行うべき「手続き」

2. 遺産分割が無効または取消しとなる場合、遺産分割に基づいて移転した相続財産の承継方法を検討する

(1) 本事例について

本事例では、遺言の存在が発覚する前に、既に遺産分割に基づいて母親に対する不動産の相続登記、および、相談者と妹に対する預金の払戻しがされています。

前述のとおり、本事例の遺言の内容が特定遺贈または特定財産承継遺言の場合、当該遺産分割は当該遺言と抵触する範囲で無効となり、割合的包括遺贈または相続分の指定の場合、当該遺産分割は錯誤を理由として取り消される可能性があります。

遺産分割が無効または取り消された場合、既に遺産分割に基づいて移転された相続財産を、遺言に基づき取得すべき相続人に移転させるための手続が必要となります。

(2) 不動産の相続登記について

既に実行されてしまった不動産の登記については、抹消登記(特定財産承継遺言において母親以外の相続人に当該不動産を相続させるとされていた場合等)または更正登記(特定財産承継遺言において母親にも一定の共有持分を相続させるとされていた場合等)によって是正することになると考えられます。

なお、登記されている無権利の相続人から上記登記手続についての同意が得られない場合には、遺言により当該不動産を取得することとなる相続人または遺言執行者が、遺産分割に基づく所有権移転登記の抹消登記手続請求訴訟等を行うことになると考えられます。

(3) 預金の払戻しについて

預金についても、特定遺贈または特定財産承継遺言と抵触する遺産分割は、原則として無効です。

ただし、当該遺産分割に基づく預金の払戻しが民法478条の要件を満たしている場合、金融機関による預金の払戻しは、受領権者としての外観を有する者(債権の準占有者)に対する弁済として有効と考えられます。

本事例では既に相談者と妹が2分の1ずつ預金の払戻しを受けてしまっているため、民法478条により金融機関の払戻しが有効となる場合には、相談者は妹に対して、遺言の内容に応じて、妹が払戻しを受けた預金の全部または一部の返還を請求することになります(不当利得返還請求)。

なお、仮にまだ預金が払い戻されていない場合には、相談者は金融機関に対して、遺言に基づく預金の取得を主張することになりますが、相続による権利の承継については、法定相続分を超える部分の権利取得を第三者に対抗するためには、対抗要件を備える必要があるため(民899の2)、相談者が対抗要件を備えていない場合には、金融機関に対して法定相続分を超える部分の預金の取得を対抗することはできません。

よって、本事例においては、相談者が金融機関に対して、自己の法定相続分250万円を超える預金の取得を対抗するためには、法が定める対抗要件を備える必要があります。

(4) 遺産分割が無効・取消しとなった場合

なお、遺産分割が無効・取消しとなり、改めて遺言に基づき遺産分割を行う場合には、税務面で贈与とみなされないよう、税理士とよく相談した上で実施することが重要です。

遺言と「異なる」遺産分割はできるのか

3. 遺言と異なる遺産分割を成立させることができるかについて検討する

遺言が存在する場合でも、遺言執行者が存在しない場合には、当該遺言で遺産分割が禁止されている場合(民908①)を除き、相続人全員が遺言の内容を認識した上で、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことは可能と解されています。

遺言執行者が存在する場合(遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前も含むとされています。)、相続人による相続財産の処分その他相続人がした遺言の執行を妨げる行為は無効とされていることとの関係で(民1013②)、遺言と異なる内容の遺産分割をすることができるかが問題となります。

この点、遺言があっても、必ずしも遺言者の意思どおりに財産が分配されないこともあり(遺留分侵害額請求権が行使された場合や、受遺者が遺贈を放棄した場合等)、遺言者の意思よりも相続人の意思を尊重すべき場面もあり得ることから、相続人全員の同意がある場合には、遺言執行者の同意を得た上で、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことは可能と考えられます。

なお、相続人以外の第三者に遺贈がされており、当該遺贈の受遺者が当該遺贈について放棄(民986)をしない場合には、当該遺贈の内容に抵触する遺産分割を行うことはできません。

よって、本事例についても、父親の遺言において遺産分割が禁じられておらず、遺言執行者も存在せず(あるいは、遺言執行者が存在するが、その同意が得られており)、第三者に対する遺贈もない場合(あるいは受遺者が遺贈を放棄した場合)には、相続人全員が父親の遺言の内容を認識した上で、当該遺言の内容と異なる遺産分割を新たに行うことは可能といえます。

遺産分割協議の前に「遺言」の有無を確認すべきワケ

4. 公証役場や法務局に対して、公正証書遺言や(保管制度を利用している場合の)自筆証書遺言の有無を照会する

(1) 遺言の調査

上記のとおり、遺産分割後に遺言の存在が発覚した場合、遺産分割が無効、取消しとなるリスクがあることから、遺産分割協議を開始する前に、相続人らからのヒアリング等を基に、遺言の存在を調査することが重要です。

「遺言」の調査で考えられる3つのケース

(2) 公正証書遺言の場合

公正証書遺言については、平成元年以降に作成されたものは、公証役場において一元的にデータ管理されており、全国のどの公証役場からでも公正証書遺言の有無を検索することが可能です(遺言検索システム)。

相続人が上記検索を行う場合は、被相続人の死亡の記載のある戸(除)籍謄本と相続人の戸籍謄本等を公証役場に提出する必要がありますが、遺言の検索自体は無料です(なお、相続が発生する前に、推定相続人が公正証書遺言の有無を検索することはできません。)。

検索結果に基づき公正証書遺言の謄本を取得する場合には、公正証書遺言が保管されている公証役場で手数料を支払って遺言書謄本の交付請求を行います。

(3) 自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言については、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が2020年7月10日に施行され、自筆証書遺言を法務局(法務局の支局および出張所、法務局の支局の出張所ならびに地方法務局およびその支局ならびにこれらの出張所を含みます。)がつかさどる遺言書保管所に保管することが可能となりました。自筆証書遺言についても、全国のどの法務局からでも自筆証書遺言の保管の有無を確認することができます。

相続人は、「遺言書保管事実証明書」の交付を請求することにより、特定の遺言者の自筆証書遺言が遺言書保管所に保管されているかどうかを確認することができます。

相続人が上記請求を行うに当たっては、被相続人の死亡の記載のある戸(除)籍謄本、相続人の住民票および戸籍謄本等を提出する必要があり、手数料は、証明書1通につき800円です。

自筆証書遺言が保管されていることが判明した場合には、「遺言書情報証明書」(遺言書の画像情報が全て印刷されているもの)を取得して、遺言内容を確認することになります(手数料は、証明書1通につき1,400円です。)。

(4) 保管制度を利用していない場合

上記保管制度が利用されていない場合、自筆証書遺言の有無を調査することは容易ではありません。

被相続人が日常的に重要書類をしまっていた場所や、貸金庫を利用していた場合には貸金庫の調査をするほか、顧問弁護士・税理士がいる場合には当該弁護士・税理士に預けていることも考えられますので、これらを念頭に可能な限りの調査を行うことになります。

〈執筆〉 石川貴敏(弁護士) 平成21年 弁護士登録(東京弁護士会)

〈編集〉 相川泰男(弁護士) 大畑敦子(弁護士) 横山宗祐(弁護士) 角田智美(弁護士) 山崎岳人(弁護士)

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