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69歳独居父、息子一家の正月帰省を心待ちにしていたが…「900万円貸して」まさかの告白に狼狽。「老後資金には手を出したくない」苦悶の末“年金事務所”で調達できたワケ【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月11日 10時30分

69歳独居父、息子一家の正月帰省を心待ちにしていたが…「900万円貸して」まさかの告白に狼狽。「老後資金には手を出したくない」苦悶の末“年金事務所”で調達できたワケ【FPが解説】

(※写真はイメージです/THE GOLD 60編集部)

年金受給を先送りする場合、増額された年金を一生涯受取る繰下げ受給のほか、さかのぼって年金を一括受給するという方法もあります。さかのぼって一括受給する方法は、2023年の法改正により利用しやすくなりましたが、実は見逃せない弊害も。本記事では、Aさんの事例とともに年金のさかのぼり受給の注意点について、オフィスツクル代表の内田英子氏が解説します。

あと2ヵ月で退職、年金は1.42倍に増額

Aさんは現在69歳。メーカーを60歳で定年退職したあと、継続雇用で働きながら、年金事務所のアドバイスを受け、年金を繰り下げて将来の年金増額を目指していました。目標は70歳からの年金受給です。継続雇用に切り替わる際、報酬がそれまでのものよりも約4割減となったことに不満をもっていました。しかし不満をいっていても報酬は増えないので、これからの生活を考え、働きながら年金を1.42倍に増やそうと働きつづけ、あと1年で年金受給が開始というところまできました。

というのも、Aさんは55歳のときに長年連れ添った妻を亡くしており、ひとり息子とは別居し持ち家でひとり暮らし。在職老齢年金制度によりカットされる年金もありませんでしたから、できる限り長く働いて、将来の年金額を増やすことがAさんにとって最善の選択肢だと考えたからでした。

遠く離れて暮らす息子が、年に2回程度帰省して顔を見せてくれることはAさんにとって大きな楽しみです。息子は4年前に結婚しており、2歳になる子どもがいます。Aさんは、息子からの年末年始の帰省の連絡を受け、今年もかわいい盛りの孫と息子夫婦と会えるとうきうきして待っていました。

ひとりで帰省した息子の告白

ところが、実際に帰省したのは息子だけ。驚いたAさんは息子に尋ねました。すると、実は離婚をすることになったと打ち明けられます。さらに息子は続けます。

マイホームを買っていたが、妻は子どもと一緒に実家の近くに引っ越すことになったため自宅を売却して財産分与を行うことになった。しかし、自宅の売却額が住宅ローンの残債を下回っており、売却することができない。その差額はなんと900万円。ひとりでは到底用意できそうにないため、Aさんにお金を貸してくれないかと言うのです。

長年連れ添った妻を亡くし、息子夫婦と孫との再会がなによりも楽しみだったAさん。息子からの突然の告白に、言葉を失いました。離婚の際、心象を悪くしては孫に金輪際会えなくなるかもしれないと思うと、息子と孫のためにできるかぎりのことはしてあげたいと思うものの、2ヵ月後に迎える70歳の誕生月には退職を予定しており、コツコツと準備していた老後資金を取り崩すには不安が残りました。

「どうしてこんなことに……」Aさんは、何度も心の中でつぶやきました。

900万円を「年金事務所」で調達できたワケ

Aさんは結局、息子が自宅を売却後、一括返済することを条件に借用書を作成し、900万円を貸しました。しかし、Aさんのライフプランは崩れてしまったのです。Aさんは年金繰下げを取りやめ、年金のさかのぼり一括受給という方法をとることで900万円を調達することにしたためです。この決断により、Aさんは年金額を増やせなくなってしまいました。

原則65歳から受け取る公的年金は、受取りを先延ばしすることができます。年金の受給時期を先延ばししていたAさんが、息子から相談を受けた時点で利用できる年金の活用方法は以下の2つ。

・予定どおり繰下げ請求し、自己資金を取り崩す ・年金をさかのぼって一括受給し貸出資金に充てる

繰下げ受給は、年金額を増やせる先延ばし方法で、最長75歳まで先延ばしできます(※昭和27年4月1日以前生まれの方は70歳まで)。年金の繰下げ請求を行った日の属する月を基準とし、1月あたり0.7%年金が増額されます(額面金額)。Aさんのもともとの年金額は月約18万3,000円の予定でしたから、70歳になった時点で繰下げ請求をすれば1.42倍の約25万円の年金を受け取れるようになる予定でした。

しかし、Aさんが繰下げ請求をすれば、息子に貸す資金は自前の資金を取り崩す必要がありました。Aさんの手元にあった資金は約1,000万円でしたから、息子に貸す金額をまかなうことはできそうでしたが、売却後一括返済してもらうといっても、いつ売却できるかはわかりません。また、息子夫婦は住宅取得の際、資金のほとんどを使い果たしており、そのほかの財産がほとんどない様子でしたから、Aさんに返済をしたあと、養育費を払いながら新生活をスタートするには大変な思いをするだろうということが容易に想像できたといいます。

一方、年金をさかのぼって一括受給すれば、約1,100万円をまとめて受け取ることが見込めましたから、多少の資産の足しになりそうでした。こうした理由から、Aさんには資産を取り崩して息子に貸すという選択はなかったそうです。

さかのぼり一括受給の弊害

予定していた繰下げ受給ではなく、年金をさかのぼって一括受給する選択を決断したAさんでしたが、後日思わぬ請求により、さらなる老後危機に見舞われました。公的年金をさかのぼって一括受給することによって、所得税と住民税、介護保険料の追納とともに延滞税・延滞金の請求を受けたのです。

延滞税とは、決められた期限までに納めなかった税金に対して課せられるペナルティで、遅れた日数分かかります。公的年金は所得税の課税対象で、1月から12月までの年金に対する所得税の納税期限は翌年の3月15日です。まとめて受け取ったのだから、個人年金保険のようにその年の収入にまとめてなるのでは?と思いそうなものですが、さかのぼって受給した公的年金は受給した時点で過去の各年の所得に振りわけられるようになっており、所得税も過去5年間にさかのぼって発生する、というしくみになっているのです。

ここで重要なのは、さかのぼって年金を一括受給すると、その時点で各年の所得に振りわけられるという点です。各年の所得に振りわけられると、住民税や国民健康保険料、介護保険料にも影響を与えます。国民健康保険料と介護保険料の計算方法は自治体によっても違いますが、住民税と所得税同様に所得に応じて増える仕組みとなっています。そのため、給与などの収入を得ながら年金受給を先延ばしし、さかのぼって一括受給する場合は追納が発生する可能性があります。

なお、所得税と住民税は過去5年間さかのぼって請求されますが、国民健康保険料と介護保険料の時効は原則として2年です。Aさんのように勤務先の健康保険に加入している場合は、国民健康保険料の支払いは不要ですが、もし国民健康保険に加入されている方であれば、所得税と住民税、介護保険料だけではなく国民健康保険料も追納が必要になる可能性があります。

追納が発生すると、それに伴い、延滞税(延滞金)も発生します。延滞税(延滞金)の割合は納期限の時期によりますが、直近では低金利を反映し、特例により2.6%~2.4%もしくは8.9%~8.7%と引き下げられてはいるものの、とても高い割合です。Aさんのケースでは、年金による所得が各年に振りわけられ加算されたことにより追納が発生し、さらに所得税と介護保険料の料率が上昇、延滞金とあわせて約90万円の支払いが発生しました。

2023年4月からの「年金繰下げ制度」の一部改正

最後に、さらに異なる情報で混乱させるようですが、法改正により、2023年より特例的な繰下げみなし増額制度が始まっています。この特例について概要をお伝えしておくと、70歳を過ぎて公的年金のさかのぼり一括受給を行う場合に、時効により受け取れない年金が発生するところ、繰下げ受給との合わせ技により、無駄なく年金を受け取れるようになる制度です(※対象は昭和27年4月2日以降生まれの方)。

この特例を適用することにより、たとえばもし72歳で年金をさかのぼって一括受給する場合、年金には5年の時効があるため、本来であれば67歳から5年間分の年金を一括受給するということになりますが、67歳時点で繰下げの申し出があったものとして、2年間繰り下げられた年金5年分をさかのぼって一括受給しながら、以降2年分増額された年金を受け取れるようになります。まさに、さかのぼり一括受給の弊害を減らし、利用を促すような特例です。

しかし、年金をさかのぼって一括受給すると、Aさんの事例のように税金や社会保険料の追納と延滞税という新たな弊害が発生する可能性もあります。老後にまとまったお金を受け取れる公的年金のさかのぼり一括受給と特例は注目すべき制度ですが、その弊害は決して小さなものではなく、見逃せません。年金の受取りを先送りする場合は、シンプルに繰下げ受給一本で計画を立てられたほうがいいでしょう。万が一さかのぼって一括受給せざるを得ない場合は、追納分と延滞税を差し引いた「手取り額」を試算したうえで受取りを検討しましょう。

〈参考〉

延滞税の計算方法(所得税)

https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/entaizei/keisan/entai.htm#keisan 

「健康保険料等に係る延滞金の割合の特例について」の一部改正について

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc5888&dataType=1&pageNo=1 

特例的な繰下げみなし増額制度

https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2023/r5_kurisage_kaisei.html 

内田 英子 FPオフィスツクル代表 ファイナンシャルプランナー

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