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一般家庭こそ「相続争い」の本場…揉める遺産分割の〈実態〉と〈根本原因〉【行政書士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月11日 12時15分

一般家庭こそ「相続争い」の本場…揉める遺産分割の〈実態〉と〈根本原因〉【行政書士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

相続を見据えて終活をするべきは、一部の富裕層だけではありません。「争族」の実情や、資産の多寡に関わらず押さえるべき対策について、行政書士・平田康人氏が解説します。

「揉める遺産額」の実態

2007年より超高齢社会に入っているわが国では、将来の相続に対する備えとして、さまざまな対策が行われています。具体的には、賃貸アパート建設や資産組換えによる「相続税対策」、生命保険の活用や不動産売却による「納税資金対策」、生前贈与や遺言作成による「争族対策」がありますが、各対策のなかでも「争族対策」については、いまだ十分な効果が出ていないようです。

「争族」とは遺産分割を巡って相続人同士が争うことの造語であり、争族対策とは文字どおり「争わないための対策」です。現在公表されている令和4年度司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれた遺産分割争いの件数は12,982件にものぼります。これは、20年前(平成13年度司法統計/9,004件)の約1.4倍に増加している計算になります。

一般的に、遺産を巡る相続での争いは一部の富裕層だけの話とイメージしがちです。しかし同統計によると、遺産分割で家庭裁判所に持ち込まれている紛争件数の内訳は、「遺産額5,000万円以下」が全体の約76%を占めており、そのうちの約33%は「遺産額1,000万円以下」となっています。この結果から、「争族」とは一部の富裕層に限ったことでなく、一般庶民が少ない遺産を巡り奪い合っているのが実情といえます。

「ウチは揉めないだろう」が修羅場を招く

では、なぜ遺産が多くない普通の家庭が揉めているのか? その要因は3つあります。

第一に「遺産額全体に占める不動産(実家)の割合が高いこと」、第二に「不動産には分割しがたいという特性があること」、第三に「争わないための対策を講じていないこと」です。つまり、遺産分割が難しい状況であっても、生前に十分な話し合いや検討がなされないまま、相続に突入してしまっている現実があります。その背景には、被相続人自身の考え方が影響しているようです。

2023年1月に日本財団より公表された、全国の60~79歳の男女2,000人を対象とする『遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査』によると、「遺言書を今後も作成しない理由」のトップ3は以下の内容です。

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<1位>遺言を書くほどの財産を持っていないから(43.3%)

<2位>法定相続通りに分けてもらえればいいと思っているから(24.6%)

<3位>家族や親族がうまく分配してくれると思うから(23.4%)

※出所:公益財団法人日本財団 2023年1月5日発表『遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査』

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これらの理由から見えてくるのは、被相続人に「うちの家族は揉めない」という大前提があることです。信じるのはよいことですが、実際の相続では思いどおりにならないケースが少なくありません。

相続の前と後で決定的に異なるのは、一家の中心である被相続人自身がこの世にいないことです。被相続人の存命中は遠慮していた相続人も、被相続人がいなくなった途端に自分の考えを主張し始めたり、時にはその主張は相続人自身ではなく、その相続人の配偶者の意思であったりします。民法で定める法定相続分は分割の指針でしかないため、遺言などがなければ、遺産分割は話し合いで決まることになります。仮に子ども3人が相続人で、かつそれぞれに配偶者がいる場合は、実質的には各配偶者を含めた6人で協議するような状況も起こります。子ども同士の仲がよくても、各配偶者の意見に影響を受け、雲行きが変わる可能性があります。

また、今は揉める要素がなくても、時間の経過によって相続人ら家族を取り巻く環境も変わります。例えば、相続人の家庭で教育費がかさむようになった、税金や社会保険料の増加で給料の手取り額が減った、物価や住宅ローン金利が上昇したなどです。場合によっては相続人自身がリストラされたり、家族の誰かが病気になったりということもあります。そうなれば、以前は遺産をあてにする気がなかった相続人でも主張せざるをえないでしょう。

遺言は、法定相続分や遺産分割協議より優先される

遺言は、遺言者である被相続人の最終意思表示として、遺産分割協議や法定相続分より優先されることになるため、相続人間の争族対策として有効な手段の一つとなります。

では、争族対策として有効な遺言書は、世間でどのくらい作成されているのでしょうか?

遺言書には、自分で作成する「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人が作成する「公正証書遺言」があります。自筆証書遺言は、被相続人が机や仏壇などで保管することもできるため、正確な作成件数は不明ですが、令和2年から始まった法務局による「自筆証書遺言保管制度」の利用件数は公表されています。また、公正証書遺言については、日本公証人連合会が作成件数を公表しています。これら過去3ヵ年の件数は次のとおりです。

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【遺言書の保管申請数】

・令和5年度: 19,336件

・令和4年度: 16,802件

・令和3年度: 17,002件

※出所:法務省『遺言書保管制度の利用状況』

【遺言公正証書の作成件数】

・令和5年度:118,981件

・令和4年度:111,977件

・令和3年度:106,028件

※出所:日本公証人連合会『令和5年の遺言公正証書の作成件数について』

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上記件数に、自宅等で保管している自筆証書遺言の作成件数を加えると、少なく見積もっても約13万件以上の遺言書が毎年作成されていることが推測されます。さらに、遺言書作成件数に関連する年間死亡者数(厚生労働省:人口動態調査)を照らし合わせると、具体的な遺言書の作成率が見えてきます。

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【人口動態統計/死亡者数】

・令和5年度:1,576,016人

・令和4年度:1,569,050人

・令和3年度:1,439,856人

※出所:厚生労働省『令和5年(2023)人口動態統計(確定数)の概況』、『令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況』

【遺言書作成率】

<計算式>

⇒(自筆証書遺言保管件数+公正証書遺言件数)÷死亡者数

・令和5年度:(19,336件+118,981件)÷ 1,576,016人 = 8.77% ≒ 8.7%

・令和4年度:(16,802件+111,977件)÷ 1,569,050人 = 8.20% ≒ 8.2%

・令和3年度:(17,002件+106,028件)÷ 1,439,856人 = 8.54% ≒ 8.5%

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上記計算式から遺言書作成率は8%台、つまり、自宅等で保管している自筆証書遺言を除き、100人中8~9人しか遺言書を作成していない計算になります。

生前に考えておきたい不動産の承継対策

不動産を巡って相続人間で争う可能性が否めない場合、相続後の遺産分割を相続人らの協議に委ねるのではなく、遺言により遺産承継先を指定しておくことで、遺産分割協議が不要となったり、相続人以外にも財産を遺せたりなどの利点があります。例えば、相続財産のなかに実家(相続不動産)があり、被相続人が実家を特定の相続人(長男など)に確実に承継させたい場合や、子どもを持たず親も他界しているが、疎遠な兄弟姉妹よりは内縁者に遺したい場合などです。

加えて、遺言で遺言執行者を指定しておくことで、遺言内容をスムーズに実現することもできます。遺言執行者は、未成年者や破産者以外なら誰でもなれます。相続人の1人でもなることができますが、相続手続きの煩雑さや他の相続人との関係性への懸念から、司法書士や行政書士など第三者に遺言執行者への就任を依頼することも多くあります。

また、遺言以外にも、家族信託の遺言代用機能を活用することで、財産管理としての認知症対策を講じつつ、遺言では指定できない数世代にわたる資産の承継者を指定することも可能です(受益者連続型信託)。例えば、被相続人の長男夫妻に子どもがいない場合、被相続人死後の家産の承継者を長男とし、長男の死後は長男の妻、長男の妻の死後は二男の子ども(被相続人の孫)に承継者を指定しておく信託契約を組成しておくことで、家産を他家へ流出させない対策を講じることもできます。

留意点としては、遺言も家族信託も、被相続人が認知症を発症すると着手できなくなる対策だということです。「まだそんな年齢ではない」などと先延ばしせず、判断能力が低下する前に済ませておく必要があります。

平田 康人

行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表

宅地建物取引士

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

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