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2025年度の年金額の見通しは1.9%増で、年金財政の健全化に貢献<年金額改定の仕組み>

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2025年1月24日 7時0分

2025年度の年金額の見通しは1.9%増で、年金財政の健全化に貢献<年金額改定の仕組み>

(写真はイメージです/PIXTA)

2025年1月24日に、2025年度の年金額が公表される見込みだ。「年金額改定」はどのような仕組みで行われているのだろうか。そこで本稿では、年金額の改定が行われる際に使用される「改定ルール」について、ニッセイ基礎研究所の中嶋邦夫氏が詳しく解説する。

年金額改定の仕組み:実質価値維持が基本だが、近年は健全化のための調整も加味

年金額改定の全体像:基本的な改定(実質価値維持)とマクロ経済スライド(健全化策)の合算

公的年金の年金額は、経済状況の変化に対応して価値を維持するために、毎年度、金額が見直されている。この見直しは改定(またはスライド)と呼ばれ、今年度の年金額が前年度と比べて何%変化するかは改定率(またはスライド率)と呼ばれる。ただ、現在は、2017年に保険料の引上げをやめ給付水準の引下げで年金財政を健全化している最中であるため、年金額の改定率は、物価や賃金の伸び(以下、本来の改定率)と年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライド)を組み合わせたものとなっている([図表1])。

本来の改定ルール:年金額の実質的な価値を維持するため

本来の改定ルールは、年金額の実質的な価値を維持するという年金額改定の本来的な役割のための仕組みであり、年金財政の健全化中か否かにかかわらず常に適用される。

2000年改正の前までは、新たに受け取り始める(新規裁定の)年金額も受給開始後の(既裁定の)年金額も、約5年ごとの法改正によって加入者全体の賃金水準の変化に連動して改定されていた1。これは、年金受給者の生活水準の変化を現役世代の生活水準の変化、すなわち賃金水準の変化に合わせるためである。

言い換えれば、現役世代と高齢世代が生活水準の向上を分かち合う仕組みといえる。また、年金財政の主な収入は保険料で、これは賃金の水準に連動して変化する。このため、年金財政の支出である給付費も賃金に連動して変化させれば、年金財政のバランスが維持される。

しかし、この財政バランスが維持される話は、現役世代と高齢世代の人数のバランスが変わらない場合にしか成り立たない。少子化や長寿化が起きると、現役世代の人数が減って保険料収入が減り、高齢世代の人数が増えて支出である給付費が増えるため、財政バランスが悪化する。そこで2000年改正後は、受給開始後(65歳以後)の年金額は物価上昇率に連動して改定されることになった2。当時は賃金上昇率よりも物価上昇率が低かったため、この見直しによる財政バランスの改善が期待された。

繰り返された「改正」によって年金額改定はどう変わったのか

さらに2004年改正では、従来は法改正を経ていた年金額の改定を、予め法定したルールで毎年度自動的に行うことになった。改定に使う賃金上昇率は、物価変動になるべく早く対応しつつ過度な変動を抑えるため、前年(暦年)の物価上昇率と実質賃金変動率の2~4年度前の平均を合わせた値が使われる形になった3。これに伴い、改正前と同様に64歳時点までの賃金変動率が年金額に反映されるよう、受給開始後でも67歳になる年度までは賃金上昇率が適用されることになった([図表2]上段)。

68歳になる年度からは、原則として2000年改正後と同様に物価上昇率が使われる([図表2]下段)。しかし、近年は物価上昇率が賃金上昇率よりも高いことが多く、支出である年金が賃金上昇率よりも高い物価上昇率に連動すると財政バランスの悪化要因となる。そこで2016年の法改正で、物価上昇率が賃金上昇率よりも高い場合には物価上昇率ではなく賃金上昇率を使うことになり、総じて見れば、賃金上昇率と物価上昇率のいずれか低い方を使う形になった(施行は2021年度分から)。これにより、本来の改定ルールによって年金財政が悪化する事態を避けられることになった([図表3])。


1 毎年度の年金額は物価上昇率に連動して改定され、5年目に過去5年分の賃金変動率に合わせて改定される方式だった。

2 諸外国の中には受給開始後の年金額を物価水準の変化に連動する国があることも、見直しの根拠とされた。年金額が物価上昇率に連動することで、現役世代の生活水準向上には追いつかないが、購買力は維持される形になった。

3 前年度の実質賃金変動率が参照されないのは、改定率を決める1月時点では前年度が終わっていないためである。

年金財政健全化のための調整ルール(いわゆるマクロ経済スライド)

(1) 原則:少子化に伴う収入減の要因と長寿化に伴う支出増の要因を、毎年の年金額改定の中で吸収

年金財政健全化のための調整ルール(いわゆるマクロ経済スライド)は、年金財政が健全化されるまで実施される仕組みであり、2004年改正で導入され、2015年度から適用が始まった。

「マクロ経済スライド」のメリット

2004年の改正より前は、おおまかに言えば、少子化や長寿化の進展にあわせて将来の保険料を引き上げて、給付水準を維持する仕組みだった。しかし、2004年改正では将来の企業や現役世代の負担を考慮して保険料(率)の引上げを2017年に停止し4、その代わりに給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取ることになった。この給付水準を引き下げる仕組みが年金財政健全化のための調整ルールであり、「マクロ経済スライド」と呼ばれるものである。この仕組みは年金財政が健全化するまで続くが、年金財政がいつ健全化するかは今後の人口や経済の状況によって変わる。

この仕組みでは、原則として、少子化によって保険料を支払う現役世代が減少した影響(すなわち年金財政の収入減の要因)と、長寿化によって年金を受給する高齢世代が増加する影響(すなわち年金財政の支出増の要因)にあわせて、年金額の改定率が調整される([図表4]の原則)。収入減の要因と支出増の要因を毎年度の年金額改定、すなわち単価の見直しの中で吸収する形になるため、年金財政の健全化に寄与する5[図表5])。


4 厚生年金の保険料率は18.3%で固定された。国民年金の保険料(額)は2017年度に実質的な引き上げが停止され、以降は賃金上昇率に応じた改定のみが行われている。この改定は、厚生年金において保険料率が固定されても賃金の変動に応じて保険料の金額が変動することに相当する、と言える。

5 加えて、この仕組みには世代間の不公平を改善する効果もある。改正前の仕組みでは将来の保険料を引き上げて年金財政を健全化するため、既に保険料を払い終わった受給者には追加負担がなく、将来世代に負担が集中する。しかし改正後の仕組みでは、現在の受給者も年金額の実質的な目減りという形で少子化や長寿化の影響を負担する。これにより、改正前と比べて世代間の不公平が縮小する。

マクロ経済スライドに設けられた「2つの特例」

(2) 特例:受給者の生活に配慮し、年金額が調整によって前年度を下回る事態を避ける

原則的な考え方は上記の通りであるが、年金財政健全化のための調整ルール(マクロ経済スライド)には特例(いわゆる名目下限措置)が設けられている。特例は、a:原則どおりに調整率を適用すると調整後の改定率がマイナスになる場合と、b:本来の改定率がマイナスの場合、に適用される(図表6左の特例aと特例b)。大雑把に言えば、特例aは物価や賃金の伸びが小さいとき、特例bは物価や賃金が下落しているときに適用される。

特例aの場合は、単純に調整すると調整後の改定率がマイナスになるので、名目の年金額が前年度を下回ることになる。これを避けるため、実際に適用される調整率の大きさ(絶対値)を本来の改定率と同じ大きさ(絶対値)にとどめて、調整後の改定率はゼロ%にされる。特例bの場合は、本来の改定率がマイナスなので、この場合も名目の年金額が前年度を下回ることになる。そこで、年金財政健全化のための調整を行わず、本来の改定率の分だけ年金額がマイナス改定される。

2017年度までは、これらの特例ルールに該当した場合に生じる未調整分は繰り越されていなかった。しかし、前述した本来の改定率と同様に多くの年度で特例に該当する状況だったため、2016年の法改正で見直された。2018年度から未調整分が翌年度へ繰り越され、2019年度以降で特例に該当しない年度、すなわち原則どおりに当年度の調整率を適用しても調整後の改定率がプラスになり、さらなる調整余地が残っている年度に、当年度の調整率と前年度からの繰越分を合わせて調整する仕組みになった([図表6]右の繰越適用(原則)。厚生労働省の資料では「キャリーオーバー」と称される仕組み)。

なお、当年度分の調整率と前年度からの繰越分の合計を適用すると調整後の改定率がマイナスになる場合には特例aが適用される。当年度の調整率と前年度からの繰越分の合計のうち本来の改定率と同水準までを調整して調整後の改定率はゼロ%になり、未調整分は翌年度へ繰り越される([図表6]右の繰越適用(特例a))。また、本来の改定率がマイナスの場合には特例bが適用され、当年度の調整率と前年度からの繰越分の合計が翌年度へ繰り越される([図表6]右の繰越適用(特例b))。

2016年の改正によって繰越しが導入され、それ以前と比べて年金財政の健全化が進みやすくなった。しかし、常に完全に調整する仕組み(いわゆるフル適用)に比べると、特例時に調整(その年度の給付水準の引下げ)が不十分となり、その分だけ年金財政の健全化が遅れて将来の給付水準が低下する([図表7])。

特例適用によって起こりうる年金の「財政的・政治的」リスク

また、デフレが継続した場合などでは、当年度分の調整と前年度からの繰越分を合わせた大幅な調整が適用できない場合も考えられる。その場合は未調整分が持ち越され続け、結果として繰越し導入前の制度と同じく年金財政の健全化が進まない事態になる。また、年金財政のリスクに加えて政治的なリスクもある。未調整分を精算できるほど本来の改定率が高いケースには、物価上昇率がかなり高い場合もあり得る。

この場合は物価が大幅に上がる中で年金の改定率を大幅に抑えることになるため、年金受給者からの反対や、実際に生活水準が大きく低下して困窮する受給者がでてくる可能性がある。そういった状況では、年金額の改定を予定どおりに実施するかが政治問題になる可能性がある。

仕組みを理解する意義:名目額が上がる場合こそ、注意が必要

年金額の改定は、名目額が下がる場合に話題になることが多い。しかし、名目額が下がるのは[図表6]の特例bに該当する場合であるため、マクロ経済スライドが適用されず(すなわち年金財政の健全化が進まず)、実質的な価値は低下しない。直感的には理解しづらいが、[図表6]の原則や特例aのように名目額が上がる際や据置になる際に実質的な価値が低下して年金財政の健全化が進む点を、理解しておく必要がある。

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