イタリアの世界遺産 ドロミテ渓谷で天空のワインイベント
&GP / 2017年8月27日 20時0分
イタリアの世界遺産 ドロミテ渓谷で天空のワインイベント
ユネスコの世界自然遺産に登録されている、北イタリアの山岳地帯ドロミテ渓谷は、3000mを超えるいくつもの山々に囲まれた絶景が楽しめる観光地として国際的に有名です。
そのドロミテ渓谷の玄関口にあたる高級避暑地Cortina d'Ampezzo(コルティーナ・ダンペッツォ)で開催された天空のワインイベント「VINO VIP(ヴィーノ・ヴィップ)」(2017年7月9~10日)を取材することができました。
「VINO VIP」は、イタリアのワイン誌「Civilta' del Bere」(チビルタ・デル・ベーレ)が主催するワインイベントで、1997年に始まり、今年で20周年、11回目を迎えました。
VINO VIPは特別なワインイベントと言われます。それは、開催されるコルティーナ・ダンペッツォが特別な場所だからです。
コルティーナ・ダンペッツォはヴェネト州の北部、ベネチアから約180km北に位置する小さな街です。周囲をドロミテ渓谷の山々に囲まれ、美しい景色が眼前に広がります。
コルティーナは、冬はスキーリゾートとして、春から秋の季節には、登山やハイキング、ツーリングを楽しむ観光客に人気のスポットです。ドロミテ山塊の麓、標高1224mにありますから、とても涼しく、夏は避暑地として最高の場所です。
この特別な場所コルティーナに、イタリア全土から選び抜かれたワイナリーのみが参加でき、選ばれた人だけが招待されるという、特別なイベントがVINO VIPです。
私は、イタリア大使館貿易促進部の招待により、日本人ジャーナリストとして参加することができました。
VINO VIPでは、テーマごとのテイスティングとマスタークラスセミナーで構成されています。テイスティングは美しい山々眺めながら、というのが、ここでのお約束。
まず興味を惹かれたのが、40歳以下の若手生産者&無名なマイナーDOC(原産地呼称)のワインを集めたテイスティングで、イタリア全土から19生産者が紹介されました。
イタリアでは、それぞれの土地の地場ブドウ品種から造られるローカルなワインが数多くあります。地元で消費されることが多く、あまり外に出てこないワインだったり、マイナー産地で知名度が低かったり、というワインです。それらは生産量が少ないということもあり、なかなか表舞台には出てきにくいのが現状です。無名の若手生産者も同様で、特にマイナー産地だったりすると、なおさらです。
ですが、マイナー産地&無名若手生産者こそが、宝の山なのです。
▼Alessandro Fedrizzi(アレッサンドロ・フェドリズィ)
2014年にエミリア・ロマーニャ州に創業したワイナリーで、当主のアレッサンドロもとても若い!親から継いだ2代目かと思いましたが、20代の彼が自分で立ち上げたとか。
エミリア・ロマーニャ州はランブルスコの名前が知られていますが、2014年にDOCになったばかりのDOC Pignoletto (ピニョレット)のフリツァンテ(微発泡)や、黒ブドウのバルベーラ種100%の赤のフリツァンテ(DOC Colli Bolognesi)など、個性的なワインがありました。しかも、飲んでおいしい。これ大事。
▼DOCコッリ・ボロネージ
ボローニャの近郊のDOCコッリ・ボロネージの名前は、イタリアワインファンでなければ、なかなか耳にしないかもしれませんが、見逃すのがもったいないDOCです。
▲家族経営のワイナリー、ヴェネト州のCavvazaの4代目、兄ステファノと妹のエレーナ
赤ワインのブドウ品種がTai Rosso 100%。タイ・ロッソなんていうブドウ品種、初めて聞きました。スペインのガルナッチャと遺伝的に近い品種だそうで、イタリアでは、ヴェネト州に最も多く見られ、プーリア州やマルケ州でも栽培されています。
▼DOC Colli Tortonesi
▲ピエモンテ州「Cascina I Carpini」のパオロさん
ピエモンテ州は有名なワイン産地ですが、DOC Colli Tortonesiはマイナーです。バルベーラ%の赤ワインもありましたが、ピエモンテの品種Timorasso(ティモラッソ)100%の白ワインや、Albarossa(アルバロッサ)100%の赤ワインを発見!
ティモラッソの白ワインは骨格がしっかりとしています。ミネラル感があり、フレッシュさもあり、塩味も感じます。パオロさんの話では、ティモラッソは20~30年長期熟成させることができるブドウ品種だそうです。25年くらい前までは生産が多かったそうですが、若くてフレッシュなワインが好まれるようになってきたので、だんだんと排除されるようになり、生産者も少なくなったといいます。
アルバロッサも地場ブドウで、バルベーラとネッビオロの交配品種。酸がしっかりあり、塩味、うまみがあり、おいしい。アルコール15%もあるのに、まったく感じません。
▼DOCG Piave Malanotte
▲ヴェネト州ピアーヴェのワイナリー「Cecchetto」(チェケット)からやってきたサラさんとお母さま
トレヴィーゾ県の地場品種黒ブドウRaboso(ラボーソ)の生産者です。ラボーソ100%で造ったDOCG Piave Malanotte(ピアーヴェ・マラノッテ)のワインを紹介してくれました。色素が濃く、酸、タンニンも高い品種ですが、ベリー類やスミレ、タバコ、黒コショウなどの豊かなアロマを持つワインになります。酸がちゃんとあり、こっくりしておいしいワインでした。
▼Nicola Biasi
トレンティーノのオーガニック生産者「Nicola Biasi」(ニコラ・ビアージ)が紹介していた「Vin de la Neu 2015 IGT Vigneti delle Dolomiti」は、うまみがしっかりあり、心地よい苦みがあるワインでした。
病気に強いPIWI交配品種Johanniter(ヨハニター)100%の白ワインで、親はリースリングとピノ・グリージョ。標高1000mで栽培しています。
▼Grosjean
ヴァッレ・ダオスタ州の「Grosjean」(グロージャン)はオーガニックの生産者です。イタリア20州で最も人口が少ないアオスタでは、DOCはDOC Vallée d’Aosteひとつのみ。
地場ブドウであるPetite Arvine(プチ・アルヴィン)100%の白ワインと、Cornalin (コルナリン)100%の赤ワインがありました。
白ワインはアロマティックで、フルーツの甘み、果皮からのタンニン、を感じます。
赤ワインは果実味がふっくらして、まろやか。じゅわっとうまい!
▼Montalbera
「Montalbera」(モンタルベラ)は、ピエモンテ州の南東部モンフェラート地方の地場品種Ruchè(ルケ)にこだわる生産者で、いくつものルケのワインを造っています。
ピエモンテというと、日本ではバローロやバルバレスコといったワインが有名で、もちろん、それらも素晴らしいワインですが、各地方には、地元ならではのブドウ品種のワインがあります。それらを発掘すると、よりイタリアワインの楽しみ方が広がります。
■高級リゾートホテルやドロミテ山塊の山の上も会場に
若手&マイナー産地をテーマにしたテイスティングは、コルティーナの街中の高級リゾートホテル「Hotel Savoia」で開催されました。
ドロミテ山塊の山の上も会場になりました。初日の夜は、ケーブルカーを乗り継ぎ、標高3200m超の高さまでGO!
眼下に広がる素晴らしい景色を眺めながら、TOFANA(トファーナ)山頂へ。夜に「La Notte delle Stelle」(星の夜)と名付けられたBBQイベントが開催されました。
まずは、第一会場の山頂レストラン「RISTORANTE COL DRUSCIÈ 1778」へ。
第一会場では、スプマンテと白ワインが前菜料理とともにサービスされました。景色と約20種類のワインを楽しんだら、ケーブルカーの途中駅に隣接する第二会場のレストラン「Rifugio Faloria」(2123 m)へ。
「Rifugio Faloria」では56ワイナリーの赤ワインがずらりと並びました。
赤ワインに合わせたのは、さまざまな肉のBBQ。肉の塊がビッグで豪快!
肉を食べ、ワインを飲み、また肉を食べ…
地場品種のワインを中心に、興味惹かれたワインをあれこれチョイス。かなり飲んだ気がしましたが、いい飲み方をしたせいか、翌朝はスッキリ目覚めました(笑)。
なお、このBBQテイスティングをはじめ、一般客でも参加費を払えば試飲会への参加が可能なイベントもあります。ちなみに、このBBQの一般参加費は80ユーロ、先述した若手生産者の試飲会は15ユーロ。
■イタリアワイン界を代表する人物のセレクトはさすがのひと言!
VINO VIPでは、いくつかのマスタークラスセミナーが開催されました。
今回、最も多く壇上に上がったのが、ワインコンサルタントのリカルド・コッタレッラ氏です。49年の経験を持つリカルド氏は、自身でもワイナリーを運営し、ワイン醸造家としてイタリアワインの評価誌の最優秀エノロゴ賞を受賞するだけでなく、数多くの著名ワイナリーのコンサルタントを務めています。彼はイタリアワイン界を代表する人物のひとりです。
セミナーでは、ワインづくりの環境問題、リカルド氏自身のバックグラウンド、現在の取り組み、今後の展望などが語られました。
また、リカルド氏が注目する19の生産者をフィーチャーした試飲会「I 19 di Riccardo Cotarella」が、「Hotel Cristallo Golf & Spa」にて開催されました。この試飲会も非常に興味深いもので、ワイナリーのセレクトもさすがでした。
この試飲会でも、またまた私は地場品種のワインに惹かれました。
例えば、モリーゼ州の地場ブドウTintilia(ティンティリア)。「Di Majo Norante」が造るティンティリア100%の赤ワインは、ジューシーでやわらかなアタックが魅力的。少し甘みがあり、とてもおいしいと思いました。少しピノ・ノワールに似ているでしょうか。
もちろん、地場ブドウばかりではなく、バルベーラ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ピノ・ネロなど、よく知られたブドウ品種のワインもありました。
各ワイナリーの担当者がサービス、説明してくれました。
19のワイナリーはイタリア各地から来ていましたが、初めて知る名前も多く、また、初体験のブドウ品種もたくさんありました。
試飲の合間、ドロミテ山塊の景色を目に映しながらの軽いランチタイム。
イタリアソムリエ協会認定のソムリエさんたちが各所でサービスにあたってくれました。
■2日目は広い山小屋レストランで開催
イベント2日目も山の上での試飲会が行なわれ、今度はロープウェイでRifugio Faloria(ファローリア山、2120m)にやってきました。
試飲会場は広い山小屋レストランで、56のワイナリーがブースを設けていました。
イタリア全土から厳選されたワイナリーが出展していますので、クオリティの高い試飲会です。入場料(30ユーロ)を払えば、一般客も参加できるとあって、会場はかなりの混雑ぶりでした。
ヴェネト州の「Le Colture」(レ・コルトゥーレ)は家族経営のヴァルドッビアーデネのプロセッコ生産者。
「1983年に父と叔父がプロセッコ造りをはじめ、今はその息子たち自分ら兄弟の世代になった。高品質なワイン造りに取り組み、世界各国に輸出しているが、残念ながら日本はまだ。ぜひ日本の人にも飲んでほしい」と、アルベルトさん。
スーパータスカンワイン「サッシカイア」のブースは大人気! トップワイナリーや高級ワインを置いているブースは、さすがに人だかりが多かったです。
ワインのおつまみに嬉しい生ハム類はフリーでいただけます。
地元産のチーズも食べ放題!
テラスから見下ろすと、ドロミテ山塊の山々の姿があります。まさに天空の試飲会。
山の麓のコルティーナの街では、こんな観光トレインも見かけました。
コルティーナは小さい街ですが、レストランやカフェも多く、観光で来ているなら、あちこち回りたかったですね。
でも、この地の魅力は、なんといっても、ドロミテ山塊の景色の美しさ。
都会の喧騒を離れ、美しい山々を眺め、澄み切った空気に触れながら、厳選されたワインが飲め、最高のひとときでした。しかも、イタリアならではのローカルブドウ品種やマイナー産地といった、新しい発見もたくさんあり、大きな収穫でした。
VINO VIPは、招待された生産者、業界関係者、研究者、ジャーナリストらが集うスペシャルなイベントですが、開催に合わせてコルティーナを訪れたのでしょう、試飲会では、ワインを楽しむ愛好家の方々の姿も見かけました。
次回の開催は2019年です。一般客ウエルカムの試飲会に興味がある方は、夏休みをコルティーナで過ごすのも楽しいかもしれません。
日程やプログラムは公式サイトで公開されます。
※取材協力/イタリア大使館貿易促進部 ※取材期間/2017年7月9~10日
(取材・文/綿引まゆみ)
ワイン専門誌や料理系雑誌での記事執筆をはじめ、日本ソムリエ協会webサイトのコラムなどを執筆。ワインセミナー、トークショー、海外のワインコンクール審査員など、幅広い活動を行なっている。チーズプロフェッショナル、ビアソムリエ、コーヒー&ティーアドバイザーの資格も所有。スイーツ好き。
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