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【トヨタ クラウン試乗】15代目が聖地ニュルで走りを鍛えた真相とは?:岡崎五朗の眼

&GP / 2018年11月19日 19時0分

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【トヨタ クラウン試乗】15代目が聖地ニュルで走りを鍛えた真相とは?:岡崎五朗の眼

2018年、トヨタを代表するロングセラーモデル「クラウン」が、5年半ぶりにフルモデルチェンジを果たしました

さまざまな“変革”を盛り込んだとして話題の新型クラウンですが、一番の変化は、1955年に初代が誕生して以来、初めて、市販車開発の聖地とされるドイツのサーキット、ニュルブルクリンクで開発を行ったこと、ではないでしょうか。果たしてそこには、どんな狙いがあるのか? モータージャーナリスト岡崎五朗さんと考えます。

■自動運転時代を見据えてのニュル詣で!?

――新しいクラウンは、ニュルブルクリンク(以下、ニュル)で開発したとテレビCMなどで盛んにアピールしています。日本国内でしか販売しないクルマを、現地で開発する必要があったのでしょうか?

岡崎:新型クラウンのチーフエンジニアを務めた秋山 晃さんによると、開発時にトヨタの営業部門とさまざまな意見を交わす中で「走りなんかをクラウンのウリにしてどうすんですか?」といわれたことがあったらしい。でも、いざ新型を世に出してみると、ニュルで鍛えたという事実が、新型クラウンを購入したユーザーたちの間で、結構、高く評価されているみたいなんだ。

――クラウンといえば、これまでもスポーティなグレードを展開していましたし、トヨタで2リッターの直噴ターボエンジンを初めて搭載したクルマでもありました。そう考えるとクラウンは、意外と走りを意識していたクルマでしたね。

岡崎:その点、新型は、これまで以上に走りの良さをアピールしているよね。でも今は、落第点しか与えられないクルマなんて、ほとんどない。だから一部のメディアでは、もはや走りの良さなどユーザーには求められていない、なんて論調もある。

でも、走行性能がクルマ開発における競争領域ではなくなってきて、燃費とかコネクティビティとかデザインとかにフォーカスが当たり始めている今という時代に、なぜトヨタは、わざわざクラウンをニュルで鍛えたのか? なぜクラウンみたいな高級車で、走りの良さをアピールする必要があったのか? 走行性能なんてどうでもいい、というのであれば、わざわざニュルにクルマを持ち込んで開発する必要はないし、そんなことをアピールする必要もない。ニュルにクルマを持ち込んで開発するとなると、莫大なコストもかかるしね。

なのに、トヨタはニュルでクラウンを開発した。そこに疑問に感じたので、秋山さんに尋ねてみたんだ。「走行性能がもはやクルマの競争領域にないのであれば、今後、世の中の自動車メーカーに勤めている実験部門のスタッフは、大半がリストラされてしまいますよね?」と。それに対する秋山さんの答えは、目から鱗が落ちるものだった。

秋山さんによると、確かに、そういう考え方もあるかもしれないけれど、むしろ今後は、もっともっとそういった開発が必要になるという。ニュルでの開発は、クルマを良くするための一環であり、確かに、走る楽しさや安全性の追求という側面もあるけれど、実は、自動運転時代を見据えてのテスト、という一面もあったのだとか。

自動運転の時代が本格的に到来すると、単に、動き出す・曲がる・止まるといった操作指令だけではなく、アクセルとブレーキとステアリングに送る指令に対し、どのくらい乗員が違和感を覚えることなく、スムーズにクルマを動かすか、という制御領域の出来栄えが問われるようになってくる。クルマが自動でハンドルを切った時、どれくらいの量で、どんな早さで車体がロールするのか、加速時はどれくらい滑らかに、どの程度スピードを乗せていくのか、ブレーキをかける時、車体はどんな姿勢になるのか…など、そういった挙動の緻密な制御は、実はすべてシャーシ性能に左右される。だからこそ、人が運転しなくなっても、シャーシ性能を鍛えることはとても重要なことなんだ。

――なるほど。確かに今でさえ、運転の上手な人がドライブするクルマの方が、乗っていて安心ですもんね。自動運転時代になると、我々はクルマに乗せられちゃうわけですから、クルマがどんな動きをするかが重要になるわけですね。

岡崎:最近、多くのメディアで「自動運転時代になると、走りの良し悪しなんてどうでもよくなる」といった論調をよく見掛けるけれど、それに対していいたいのは、世の中のどこのメーカーが、実験部門を廃止しましたか? 開発スタッフの数を減らしましたか? ということ。そんなニュースなど全く聞こえてこないし、逆に、テストコース新設の話題さえ耳にするほど。今後、自動運転時代が本格的に訪れると、クルマのキモとなるシャーシの性能が、ますます重要になるかもしれないね。

■ドイツ車から乗り換えても不満のないフットワーク

――来たるべき未来を見据えての側面もあったニュルでの開発ですが、そこから誕生した新型クラウンを実際にドライブされて、どのような印象を抱かれましたか?

岡崎:先日、マイナーチェンジを受けたメルセデス・ベンツ「Sクラス」に、新開発の直列6気筒エンジンが搭載されたよね。それを皆、素晴らしい乗り味に仕上がっていると絶賛しているけれど、それはエンジン単体で具現されているものなのか、といわれれば、そんなことはないと思う。エンジンと同時に、サスペンションがものすごくブラッシュアップされたからこそ、その相乗効果で「これはすごいクルマだ」と感じられるようになったんだ。もし、マイナーチェンジ前のシャーシに新しい直6エンジンを載せても「あ、エンジンが良くなったね」といった程度の評価に過ぎなかったと思う。ブラッシュアップされて極上の乗り味になったシャーシに、新世代の直6エンジンを組み合わせたからこそ「新しいSクラス、すごいな!」という評価につながっているんだ。

同じことが、新しいクラウンにもいえる。先代までのクラウンは、スポーティグレードの「アスリート」を買うと、それなりに走りのスタビリティが高いけれど、乗り心地が犠牲になっていた。一方、高級グレードの「ロイヤルサルーン」を選ぶと、乗り心地と静粛性には優れているけれど、走りのスタビリティを犠牲にしなければいけなかった。そういう二者択一を、ユーザーに求めるクルマだったんだ。

でも新型は、どのグレードを選んでも、走りも快適性も良くなっていて、双方が高い次元でバランスされている。実際、新しいクラウンに乗ってみて「これなら自分で買って乗ってもいいかな」とちょっと思ったくらいだよ。従来のクラウンでは、そんなこと一切思わなかったけどね。

――かつてのクラウンは「いつかは」という位置づけでしたが、新型は「僕らの」クラウンといった感じで、少し身近な存在になった感がありますね。

岡崎:もちろん、デザインはまだまだもの足りない点があるけれど、新型は全幅が1800mmに抑えられていて日本の道でも取り回ししやすいし、ラゲッジスペースにはゴルフバッグが4セットも積める上に、最新のコネクティビティも搭載されている。

なおかつ燃費も良く、元気に走りたいなと思った時には、相当高いレベルでしっかり走ってくれる。以前のクラウンは、足とボディがバラバラに動いていて不安を覚えることもあったけれど、新しいクラウンはそれぞれがキチンと動いていて、結構うねったり荒れたりした路面を走っても、ドライバーの目線が動かずに駆け抜けていく。しかも、ハンドルを切ったら、素直に向きを変えてくれるしね。あのフットワークなら、BMWから乗り換えた人でもイヤだと感じることはないんじゃないかな。

――エンジンも同様の印象ですか?

岡崎:新型クラウンのシャーシは、確かによくできている。だからこそ、メルセデス・ベンツやBMWから直6エンジンを供給してもらって積んだら、ものすごく素晴らしいクルマになるだろうな、なんて冗談をつい考えてしまう。それくらい、現状のパワートレインはちょっともの足りないね。

燃費を重視した影響か、回転フィールがちょっとカサついているんだ。そこがちょっと残念だね。

■変革を実現したのは熱い“クラウン愛”

――近年、日本車では、ユーザーの年齢層が高くなって古くさいイメージがついてしまったから、といった理由で、多くのロングセラーモデルが廃止されました。その中でクラウンは、誕生から60年以上が経過した今もなお、生き残っています。トヨタにとってクラウンは、それだけ大切なモデル、ということでしょうか?

岡崎:クラウンとカローラは、トヨタにとって、とても重要な柱だと思う。特にクラウンは、トヨタ初の乗用車として世に誕生したモデルだし、今回のモデルで15代目。いまさら止められないよね。

それに、日本マーケットのことを考えて作られた高級セダンの中で、唯一生き残っている存在でもある。高級セダンのカテゴリーで、月に数千台も売れている日本車はクラウンだけだし、世の中の多くの人にオーソライズされている。一方、クラウンというクルマは、その分、無難な選択肢でもあった。クラウンに乗っていたら貧乏には思われたいけれど、成金にも思われない。

――ある意味、バランスのいいポジショニング、でしたよね。

岡崎:クラウンは、長年そういうクルマだったんだ。でも、それじゃつまらないよね、という思いが、僕たちだけでなく、トヨタ社内もあったはず。だからこそ新型は、相当な変化を盛り込んできたんだと思う。

――新型の特徴でもある、リアドアの後方に小さなウインドウを配置した“シックスライト”のスタイルも、最初はなんとなく違和感があったのですが、今ではきれいなフォルムで「なかなかいいな」と思えるようになってきました。

岡崎:新型クラウンのデザインが初めて公開されたのは、東京モーターショー2017だったんだけど、事前に配布された写真には、実はリアピラーの部分に、クラウンのエンブレムが貼られたクルマが写っていたんだ。でも、実際に会場で公開されたクルマには、それが付いていなかった。秋山さんによると、どうやらトヨタの上層部の人が「付けろ!」と主張したので、当初は付いていたみたいだけど、最終的には秋山さんの判断で外されたんだって。それくらいトヨタの人たちの間には「クラウンはかくあるべし」との思いが、それぞれ強くあるみたいだね。

でも、初代モデルから、リアピラーにはクラウンのエンブレムが付いていたのか、というと、実はそんなことはないし、過去には“クジラ”と呼ばれた変わったデザインのモデルもあったほど。クラウンといっても各世代に、それぞれ変化が盛り込まれていたんだ。だから秋山さんは「クラウンは日本人に向き合った高級セダンである」ということ以外、新型ではすべてを変えてもいい、と思っていたらしい。

確かに、1800mmに抑えられた全幅とか、左右に首を振るエアコンのルーバーとか、運転席のドアに付いているトランクリッドのオープナーとか、新型にも継承されたクラウンの“お約束”はいくつかあるけれど、それらは例えば、リバイバルした映画が、昔のシリーズを観たことがある人に対し、思わずニヤリとできる部分をところどころに残しつつ、全体的には全く新しい作品に仕上がっているのと同じで、一種の演出だよね。

――新型クラウンのラゲッジスペースは、上面が金属むき出しではなく、パッと見では分からない部分ですが、しっかりとトリムが貼られています。あれは、ゴルフバックをキズつけないように、といった、実用面での配慮から採用されたものなのでしょうか?

岡崎:もちろん、それもあるけれど「高級セダンなら、そこには絶対、トリムが付いているべき」という、秋山さんの考えから採用されたものなんだ。

新型クラウンは、例えば、メカニックの人しか見ないようなところにまで、しっかり塗装を施している。秋山さんによると、それは、メカニックの人たちがパーツを外して整備をする際「ああ、やっぱりクラウンは他のクルマとは違うんだな」と感じてもらいたいから、なんだとか。また、工場見学に訪れた子どもたちに生産途中の状態を見られても「わー、カッコいいなぁ」と思ってもらえるような配慮もしているらしい。そんなところまで手を抜かないなんて、ものすごく志が高いよね。

――そういえば、新型クラウンはアルミのダイキャストで作られたフロントサスペンションの上端部が、ものすごくきれいに成型されているのですが、エンジンを覆う樹脂製のカバーで隠れてしまって、チラリとしか見えないんですよね。メカメカしくて、クルマ好きにはウケそうだから「もっとしっかり見せてくれればいいのに」と思ったほどでした。

岡崎:そもそも秋山さんは、クラウンが好きでトヨタへ入社した人。実験部門に所属していたんだけど、ずっと「クラウンをやりたい!」といい続け、ついに13代目のモデルから、チーフエンジニアの右腕として開発に携わってきたんだ。そんなに“クラウン愛”の熱い人が「今回は変える!」といって変えたからこそ、「あいつがいうならしょうがないな」と、社内的にも認めてもらえたんだと思う。

日本車で唯一、認められている高級セダンのクラウンが、ここまで変わったということは、日本車の主流が変わったということでもある。そういう意味で新型クラウンの変化は、日本の自動車界にとっては大きな意義があると思うよ。

<SPECIFICATIONS>
☆2.0 RSアドバンス
ボディサイズ:L4910×W1800×H1455mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:1998cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:8速AT
最高出力:245馬力/5200〜5800回転
最大トルク:35.7kgf-m/1650~4400回転
価格:559万4400円

(文責&写真/&GP編集部)

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