塗師・赤木明登の工房へ。そして優しい能登のイタリアン【LEXUS×VOGUE JAPAN アメイジング エクスペリエンス in 金沢レポートその3】
IGNITE / 2014年11月12日 18時42分
輪島塗の塗師・赤木明登氏の工房に一歩踏み入れると、そこはまるで大樹のウロの中のような“木”の世界だ。先の工程を待つ器と様々な道具達が所狭しと並んでいる。
各地から輪島塗の世界に飛び込んで来たというお弟子さん達が、赤木氏のデザインした器に下塗りを施す様子を見せていただいた。輪島塗は、もともと丈夫さが本懐なのだそうだ。下地に使われる『輪島地の粉』が硬質ではげにくい性質をつくっていく。
若き職人達の横顔には、工芸への厳しい決意が宿る。
赤木氏もまた若き日に東京を離れ輪島にやってきたそうだ。彼自身の親方は「生活の中の漆」に光をあて工芸界に革命をもたらした名人、角偉三郎氏。角作品については、とかくその無骨さや力強さが語られるが、赤木氏は生き生きとした表情に心を打たれたという。おしゃべりな器、セクシーな器、どっしり無口な器。彼は師の作品の数々について、まるで命あるもののように語った。
そしていま赤木氏自身の手が生み出す器もまた、プレーンな線と面の美しさの中に有機的な輝きを感じるような「使う漆器」である。
赤木氏が輪島塗の世界に入ったころ、注目されていたのはきらびやかな装飾が施された余所行きの漆器たちであったという。その中で、日々ともに生活をする器、持っていることも忘れてしまうように人の手と親密に繋がる器をつくり続けてきた赤木氏の道程は決して平坦ではなかっただろう。
現在、彼と彼の工房のスタイルは文化や食を愛する人々からの熱い指示を集めている。親方である彼が担当するのは“上塗り”という工程だ。女性の毛髪でつくられた筆を使って、漆器の表情をつくる。
上塗りの一番の敵は埃である。徹底的な清掃をした部屋で作業してなお、器に付着する埃の一粒一粒を取り除く作業は不可欠だそうだ。その気の遠くなるような仕事を想像すると、彼の卓越したセンスや華やかな経歴のみを安易に語る意味は無いように感じられた。
器のコンセプトやデザインのプロデューサーであり、工房のすべての仕事を統べるディレクターでもある彼は、また誰より地味な仕事を黙々と続ける一人の無骨な工匠であるのだ。
見学の後は、工房の皆さんが伝統の祝い唄『輪島まだら』を披露してくれた。
「松にひな鶴 千歳の春は 岩や清水に 亀がすむ」
七・七・七・五という短い歌詞を、母音を長く伸ばしながら5分近くかけて唄う。輪島塗の職人が一人前になる“年季明け式”では、様々な職人達が集まりこの輪島まだらを唄うそうである。潮のうねりのように長く尾を引くその節回しと若き職人たちの厳粛な表情に、連綿と続く技術と人の営みを思う。
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