撤退?! 仮面ライダーウィザード。

インフォシーク / 2013年5月7日 17時30分

湖に落ちた怪人・グレムリンこと滝川空。彼はもしや、味方になるのか?

若い頃、大阪ミナミのラーメン屋で深夜バイトをしていた。

その店はマズいと言っては他のマズいラーメン屋に申し訳ないほどマズかった。キャンペーンを催して一杯100円で提供しても、客が怒って帰るほどにストロングなラーメンだったのだ。

マズさの秘密は店独自の特製スープにあった。特製スープとは寸胴に水をなみなみと入れ色んな食材を煮詰めるものだろう。我がラーメン屋もしっかり煮詰めていた。大人が運ぶのも一苦労なビッグな寸胴に水をなみなみ、そして食材。タマネギと人参を1個ずつ。だけだ。それを煮詰めまくるのだ。男らしいったらありゃしない。そこにできるスープは、出汁というには程遠い、白湯(さゆ)。これが我が店の特製スープであった。意味がわからなかった。

一度だけ有名料理雑誌が間違って取材に来てしまったことがある。しかしマズいもんはマズい。ラーメンを食べた記者は無言のまま帰っていき、一ヶ月後に記事を読むと、他のラーメン記事は克明に味について書いてあるのに、我が店のラーメン記事だけは克明に駅からの道順だけが書いてあった。

全てにおいて、さっぱり意味がわからないラーメン屋であった。

とんだ前置きであるが、なぜこの「意味がわからん」という部分にスポットを当てたかというと、5月5日(日)の仮面ライダーウィザード第34話で怪人が「意味がわからん」というセリフを発したからである。

そもそも怪人という存在が意味がわからんのに、その怪人が「意味がわからん」と発する状況とは、一体どんなものなのか。簡単に説明したい。怪人どもがある女性を襲うので、仮面ライダーウィザードと仮面ライダービーストがその女性を必死に守っていた。場所はダムの上。まるで昔の刑事ドラマな状況だ。しかしどうにも多勢に無勢となり、とうとう彼女が怪人たちにやられる瞬間がきてしまう。もうダメだ! その瞬間、なぜか一人の怪人が身をていして彼女を守ったのである。

意味がわからない状況の中で、彼女を守った怪人は襲っていた怪人から怒りの一太刀を受け、ダムから湖に落とされる。仲間割れだ。するとそれを見た仮面ライダーウィザードが、湖に落ちた怪人を救うために湖に飛び込んだのである。

本来彼が守るべき、襲われている女性をほったらかしにして…。

い…意味がわからない! どういうこと、これ?! 優先順位って、なに?!

そしてその気持ちは、襲っていた怪人本人も同じであったらしい。奴は混乱をきたし、こんなセリフを叫ぶ。

「意味がわからん! いったん撤退!」

な、なにぃ?! いったん撤退?! 意味がわからないのはこっちだ! オマエらが撤退する意味がどこにあるのだ!

この展開を見ながら、確かに意味がわからんときって、目の当たりにした者も意味がわからん行動をとるなぁ、と思った。そして、しかし本来は、そんなときは脇目もふらず目的を完遂すべきなのだろうな、となんだか真面目なことまで考えてしまったのである。

今回の怪人も、撤退したことで明らかに最初で最後のチャンスを逃していた。ウィザードが消えた今、ダムの上にいるのはウィザードより実力が劣るビーストだけ。確実に女性を狙えるチャンスだったのに。

しかし、かたや当事者というのはこのようなとき、おおよそ自分を冷静に見られないものだ。これが人生においてとても難しいところである。

「迷わず行けよ、行けばわかるさ」とアントニオ猪木は言った。「あなたの考えはすべての出来事、存在をあるがままに前向きに肯定し、受け入れることです。…すなわち、これでいいのだ、と。」これは赤塚不二夫氏の葬儀におけるタモリの弔辞だ。

(余談だが、この美しい弔辞がまさかアドリブであったことで、世間をあっと驚かせたのはもはや伝説であるが、かたやこの内容の素晴らしさにおいて議論されることは少ない)

人生は選択の連続であり、人生はまるで簡単ではない。ただし。どんな状況でも「迷わず行けよ」で進むべきなのだろう。仮面ライダーウィザードの怪人のセリフを聞きながら、そんなことを思ったのである。

少しだけ、自分の人生の反省を踏まえて。

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ガッケンター
1973年1月生まれ。芸術家。ライター。芸術活動のかたわら、仲間と協力してゆるゆる映画応援サイト「ガッケンターサイト」の運営や、映画監督や俳優もゲスト出演する「ガッケンターTV」(インターネット)の製作をしている。

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