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GEが今、GEキャピタルを手放す理由/日沖 博道

INSIGHT NOW! / 2015年6月1日 19時59分

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日沖 博道 / パスファインダーズ株式会社

今年の4月上旬、米GEのジェフリー・イメルトCEOは金融事業から事実上撤退するという大胆なリストラ方針を正式に表明した。

GEキャピタルとして知られる世界有数の金融機関で、その保有資産たるや5千億ドルという途方もない金額である。巨人・GE全体の売上の3~4割を占める巨大ビジネスであり、利益ベースでは半分近くを稼いでいるというのが実態だ。

http://www.gereports.com/post/96727111405/ge-boosts-focus-on-growing-industrial-core-with

こうした超巨大企業による主力事業の切り離し・売却というのは、日本では似たような事例がほとんどないので、これがどれほどすごいことなのか、一般の人にはなかなかピンと来ないだろう。例えて云えば、シャープがテレビを中心とする家電事業を売却するようなものだろうか、しかも経営が左前にならないうちに。

海外では巨大企業におけるこうした思い切った事業ポートフォリオの組換え事例が、10年に一度程発生する。

例えば農薬と種子・バイオテクノロジーの世界的リーダー企業である米モンサントは、主力だったPCBなどの汎用化成品を思い切って売却している。IBMが 中国のレノボにパソコン事業部門を売却した事例はとみに有名だ。通信機器大手ノキアはかって携帯電話メーカーとして世界首位だったが、スマホで出遅れてサムソンに抜かれた時点で携帯電話事業を手放し、通信設備事業に集中している。

ではGEの業績には何か問題でもあるのだろうか。その点で云えば、特段切羽詰まった問題があるわけではない。昨年期は増収増益で、今期も同様の見通しだそうだ。でも敢えていえば、グラフを見てお分かりいただけるように若干の伸び悩みを示しているといえば、そう云える。

http://www.statista.com/statistics/263828/revenue-of-general-electric/

ただしこの図体になると、多少の新製品ヒットなどでは増収にはほとんど効かず、特定事業部門で多少の増収があっても全体としてみるとほとんど影響はない。しかも2011年から2013年に掛けてメディア大手のNBCユニバーサルを、2014年には家電部門をエレクトロラックスへ売却していることを併せて考慮すると、それでも売上微増を続けていることは大したものだと言わざるを得ない。

では何がGEをして、これほどの主力事業の切り離しを決断させたのだろう。

当然、金融事業に第一の理由がある。ある種のとてつもないリスクを抱えているからだ。それは2008年のリーマン・ショック時に顕在化した。GEキャピタルが瀕死の状態に陥り、ひいてはGE全体も深刻な状態になったことを覚えている諸兄もおられるだろう。

当時、GEは150億ドル規模の増資を実施してこの危機を乗り切ったが、このうち30億ドルの優先株はウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハザウェイが引き受けた(のちにGEが買い戻し)。そして多くの米大手銀行と同様、GEキャピタルもまた、債務に対する600億ドルにも上る政府保証を受けてようやく存続できたのだ。

その後も金融部門の利益は伸びず、負債額は簡単には縮小せず、今現在でも同社の負債は約33百億ドルに上るとされる。米金利がじりじり上昇気配を示す一方で新興国経済に変調の兆しが見られる中、いつまた大きな経済ショックが起こり、悪夢が蘇らないという保証はない。

ではなぜ今なのだろうか。

実はリーマン・ショック直後はもちろん、過去数年の間に何度も、資本市場関係者からは「GEはGEキャピタルを売るべきだ、でも無理だろう」という提言的な批判記事が出ていた。しかしながらそうしたコメントを裏付けるようにGEは金融部門を保持し続けてきた。ずっと売上で40%前後、利益で半分前後を稼いできた部門を手放すことがどれほど難しいか、想像に難くない。

しかし昨年のアニュアルリポートでは遂に「金融部門は当社の中核ビジネスではない」というコメントが掲載されるに至った(つまり今回の発表は全く唐突ではない)。これで売却の方向性は決まったことは外部にも分かった。問題はその踏ん切りをつけるタイミングであり、きっかけだった。

ヒントは、イメルト氏は過去にも似たような行動を起こしていることだ。2007年にプラスチックス部門を、そして先に触れたように2011年から2013年に掛けてはメディア部門を、昨年には創業事業である家電部門を、それぞれ切り離している。

前任者のジャック・ウェルチ氏は「中性子爆弾・ジャック」の呼び名があったほど苛烈なリストラ実行が目立っていたが、イメルト氏にはそうしたイメージはない。しかし実態は違う。彼もまたウェルチ氏に劣らない、「リストラを躊躇しない経営者」なのだ。

ただしウェルチ氏のように単純に「業界1位または2位」以外は手放す(といいながらもNBCや家電部門・金融部門を残していたが)という「ポートフォリオ経営」に徹しているわけではないようだ。むしろ少しずつグループの事業ドメインをはっきりさせて理想の形に近づけるべく動いてきたというのが事実のようだ。

その過程ではウェルチ氏同様の「業界1位または2位」などの原則も掲示していたが、重きを置いていたのは全体像であり、そのための投資の原資を賄う一助にすべく、全体像に必要のない部門を売却してきたという、実に長期観点での戦略経営をしてきたのがイメルト氏だ。

そのイメルト氏が「今がその時だ」と考えた理由はおそらく3点ある。その第一は、「今が金融事業の売り時だ」という判断だろう。

リーマン・ショック後、GEキャピタルは資産の切り売りを着々と進めてきたため、そのバランスシートは縮小と同時に相当な改善を既に果たしたと見られる。そうした売り物に「磨きを掛けた」状態に持ってきたうえで、今は米系・中国系を中心に世界の金融業界が「いい出物がないか」と探し回っている、一種のバブル状態だ。

これこそGEにとっては長年待ち焦がれた売り時の到来である。

実際、GEキャピタルの大幅な事業縮小策の発表時には同時に、米投資会社のブラックストーンや米大手銀行のウェルズ・ファーゴに不動産関連資産を265億ドルで売却することが公表された。

第二の理由は、昨年に決着がついた、仏重電大手アルストムのエネルギー産業向け事業をめぐる争奪戦での勝利だ。独シーメンス・三菱重工業の日独連合との熾烈な争いを制したことで、元々世界トップの航空・運輸・医療向けに加え、電力・ガス向けでも圧倒的な世界トップの座を確定させたのだ。

要は、「自分たちは世界の製造業の王者だ」という誇りを強めると共に、GEキャピタルの売却によって生じる収益の落ち込みを埋める見込みが立ったのだ。

「製造業だとか言いながら金融部門に食わせてもらっているんじゃないか」といった陰口はもう言わさないぞ、と悲願達成へ邁進する気分になったことは間違いないだろう。ついでながら「業界1位または2位」というスローガンの徹底にも役立つ。GEキャピタルだけは(大きいとはいえ)全米7位という中途半端な市場地位だったのだから。

理由の第三は、同社の掲げるIndustrial Internet戦略の成果が見えてきて自信を深めたことだろう。

これこそ弊社がGEをウォッチしている主たる理由なのだが、今世界が注目するIoT戦略の先駆者として2012年11月に"Industrial Internet" Visionを発表後、新しいビジネスモデルにより顧客への価値提供の次元を上げると同時に、製造業の未来を変える試みを着々と進めている。

例えば航空機分野では、エンジンに備えられたセンサーや通信システムを通してエンジンの稼働状況と調子が刻々とGEおよび顧客の間でシェアされて、不調の前兆が把握され、航空会社における保守点検の優先項目やタイミングが調整判断されるところまで来ている。

この結果、GEがIndustrial Internet戦略を推し進める大型機器の製造業分野では、単なる機器の価格競争や人海戦術のサービス合戦ではなく、顧客のビジネスにとって付加価値をもたらす度合によって機器ベンダーの評価、ひいては将来のビジネス機会が変わってくる方向になりつつある。それを主導しているのがGEなのだ。

しかもその仕組みを他のメーカーに外販し、新たな収益の柱にする体制まで整っているのだ。

つまりイメルト氏がずっと狙ってきた、強く賢くたくましい製造業の代表選手に復帰する見込みが立った今、その足かせにしかならないGEキャピタルを抱えておく理由はもう存在しないということだ。これほど明確な「なぜ今か」の答は他にない。

ちなみに今後、GEが金融サービスを全く手掛けないかというと、そんなことはなさそうだ。他の電機大手が実施している程度の、機器を売るためのファイナンス手段(産業向けローン、リース等々)の提供というオーソドックスなB2B金融サービスは今後とも継続されると見られる。

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